作品1-7
しばらくそのような日が続くかと思っていたが、再び母の声を聞くまでに時間はかからなかった。
その日の晩のことである。私は風呂上りに麦茶を飲もうと思って台所に入った。別に飲みたいと思ったわけではないのであるが、ただ台所に入ろうとは思った。私はまだ水切りかごに入っている自分のコップを手に取って、麦茶をゆっくりと注いだ。
麦茶が入ったポットの注ぎ口をコップの縁に当て音を立ててみた。でも駄目だった。慣れない手つきでコップを洗い、割れない程度の高さからシンクにコップを落としてみた。それも駄目だった。用のないお茶碗と小皿を手に取って、軽く打ちつけてみた。お箸をわざと床に落としてみた。もう一回麦茶を飲んで、大きく息を吐いてみた。しかし、キッチンのカウンター越しに見える母が私を見る様子はなかった。返ってくるのは、母が洗濯物をたたむ音ばかりであった。
私は諦めて、洗ってはいない自分のコップを再び水切りかごに戻して、台所を出ようとした。
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