作品1-6

 庭に通じる網戸が動く音を聞いて、私はその音に紛れるようにして自室へ戻った。

 私がその後部屋から出たのは夕食の時である。父と母、兄二人と私で食卓を囲んでいる。ないものには気づくわけもない道理はあるが、普段からうるさいらしい私が黙っているのはないものがあると気づくには充分らしかった。色々と察したらしい父は静かにしていた。兄達はテレビに夢中であった。母もそれに全く便乗しないまでも、笑っている時に出すような息を吐いていた。


 時として母がお箸を止め、物案じる様子を見せるのに気づいてはいた。しかし、どう振る舞えばいいのか私には分からなかった。兄達と一緒に笑っている母を見れば安堵しないではなかったが、だからと言って気を許すつもりはなかった。でもだからと言って先の母の表情を私が忘れたわけではなかった。箸を多めに動かしたり、料理を小分けにして口に運んだりして、皆の夕食が終わるまで場を繋がないといけなかった。 

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