第4話 コップ

前回までのローバード・デュウニュウアーリーは。


「いかんいかん。この先に行ってはいけない」


「旅の者。助太刀を頼む!」


「そう言って俺を騙す気だろう!」


「おい! 下がれ!」


「名前は、ブランコだ」



 無賃乗車はおやめくださいと電車のアナウンスが言った。


 ローバードは電車に乗り込むと席に座った。


 次はタマネギガハラ~タマネギガハラ~。


 タバコを吸いながら待っていると、女子高生のふたりがタバコを吸いながら何かをしゃべっていた。


「でさあ、マジでーあのセンコーだりーよ」

「宿題なんかやってられっかって、マジで」

「そうそう、スカートの丈がなげーから、ズボンをはいてこいだってさ」

「スカしてんじゃねーって、マジで。あたしさぁ、次はタヌキの着ぐるみ着てくから、マジで」


 ローバードは席を立って女子高生たちに言った。


「おい!」


 くちゃくちゃとガムを噛みながら女子高生たちはローバードを見ている。


「なんだおっさん?」


 と女子高生のひとりが言った。


「貴様ー! タバコを置け!」


 彼女たちはお互いに顔を見合わせた。


「はあ、なんで?」


 ひとりがガムを吐き捨てた。


「今すぐ置け!」


 そう言いながら銃を取り出して女子高生たちに向けた。


 そのまま彼女たちに近づいてカチューシャを取り上げると、ローバードはゆっくりとそれを下に置いた。


「おい、そこの豚野郎! 鍵をだせ!」


 ローバードは一緒に乗り合わせている細身の男を指さした。


 細身の男は車の鍵を取り出してローバードに投げ渡すと地面に頭を抱えて伏せる。


 鍵を受け取り、ローバードは鎧を着た大男に銃口をむけたまま電車のドアにカギを掛けた。


「ふふふ、面白くなってきたわね」


 近くで見ていた貴婦人がオペラグラスをのぞきながら言った。


 キツネの仮面をつけた男が携帯電話でどこかに掛けようとしていた。


「ああ、俺だ今、ごう……」

「さっさと携帯をこっちに寄こすんだ」


 男は携帯をローバードに渡した。するとローバードはその電話に向かって話し出した。


「ちょっと変わりました、彼、急に体調が悪くなったみたいで……いえ、何でもありません。友達です。では」


 ローバードは広告を見ながら言った。


「この電車は何時ごろとまる?」

「あと10分くらいだ。なあ、あんた、俺たちを閉じ込める気か?」


 すると電車が急に止まりアナウンスが流れ始めた。


 御乗客の皆様には大変申し訳ありまん、ただいま運転を見合わせておりますので、もう少々お待ちくださいますようにお願いします。


 途端にドアが開いた。


 ローバードはそのドアから出ようとしたとき、ドーンと電車が揺れた。


 揺れが収まるとローバードは振り向き言った。


「誰か一緒に来てもらう」


 女子高生たち、細身の男、貴婦人、鎧を着た大男、それとキツネの仮面をつけた男を双眼鏡でのぞきながら眺めた。


「そこのお前だ!」


 と言いながらローバードは人差し指を向けた。そこにいたのは車掌だった。


「え? わたしですか?」

「そうだ、早くこっちにこい」


 車掌はそろりそろりとローバードに近寄った。


 ローバードはほかの者たちに銃を向けながら言った。


「いいか、サツに連絡してみろ、この銃を空に浮いている空気に向かって撃つからな!」


 それから、ローバードは車掌の胸ぐらをつかんだ。


「降りろ!」


 電車から降りて改札口を通り駅のホームを抜けた。


 歩道橋を渡ろうとしたら、パーティーで使うキラキラした三角のとがり帽をかぶりパジャマを着た男に呼び止められた。


「ああ、あんた。ちょっと」

「何だ?」

「くじ引きをやっていってくんないか。たのむ」

「くじ引きだと?」


 男が台のほうを指さす。そこには真ん中に穴の開いた正方形の箱が載っていた。


「ああそうだ。そうしないとこの星が消滅してしまうと言っても過言じゃないんだ!」

「そうか、それは大変だ」


 ローバードはくじ引きの箱を見ながら考えた。それから台の下をのぞき込んで言った。


「こんな運否てんぷじゃ話にならない。ほかのミッションはないのか?」

「ダメだ、これしかねえんだ!」


 ローバードは肩の力を落として隣にいた車掌に言った。


「おい、お前がやれ」


 車掌はキョロキョロと辺りを見回した。


「え? えっ!? わたしがですか?」


 ローバードは銃を車掌のこめかみに突き付ける。


「そうだ」


 訳が分からないといったように、車掌はハトのように頭を動かしている。


 ローバードは車掌を急かした。


「早くするんだ。あと15秒しかないぞ」

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