36.エスティア、バレる?

「で、どうだったんだ?」


 そのもの静かな男は椅子に座りながらゆっくりと言った。部屋のソファに座った短髪の女性は下を向いて黙り込む。男が言う。


「やはり厳しそうか」


 短髪の女が口を開いた。



「難しいかなってのが第一印象。何より……」


 男が黙って女の顔を見つめる。



「何よりあれは、とても暗殺をできるような状態じゃない」


「……」


 無言の男。同じく部屋にいた髪をカールに巻いた色っぽい女が言う。



「それも手段じゃないの~、暗殺の」


 短髪の女が言う。


「いや、無理だ。殺意が感じられない。それぐらい接触すれば分かるだろ? 姉さん」


「私、分かんな~い」


 カールを巻いた女性が冗談っぽく答える。男が言う。



「いずれにせよ、我々も動かねばならない。少し強引な手になるかも知れぬが」


 ふたりの女性は黙ったまま何も答えなかった。






「突然だが、明後日からみんなで温泉旅行に行く」


 今に集まった皆に対してレインが言った。エスティアが驚いて聞き返す。


「えっ、温泉旅行ですか!?」


 ローランがエスティアに言う。



「昨年も行ったんだよ。日頃の疲れを癒す為の慰安旅行さ。費用は勇者様持ちでね」


 レインが笑いながら言う。


「そうだな。みんなの日々の頑張りに応えて今年も温泉旅行に行こうと思う。新しい温泉を探してきた。是非溜まった疲れを癒して欲しい」



「やったー、楽しみだな!! どんな温泉?」


 ティティが嬉しそうにレインに尋ねる。


「そうだなあ、確か『美肌効果』があるとか言ってたかな」


「美肌効果っ!! 素晴らしいね!!」


 ティティが更に喜んで言う。エスティアが思う。



(温泉かあ、実は行ったことないんだよね。貧乏だったし暗殺の訓練で大変だったからね。それに美肌効果って、肌がキレイになるんだよね。ど、どうしよう。また魅了効果が上がっちゃうわ!)


 エスティアは美肌効果の更にのことまで想像しひとり顔を赤らめる。レインが皆に言う。



「ち、ちなみに温泉は男女混浴はない。へ、変な期待はしないように!」


 いつも冷静なレインの顔が少し赤くなっている。それに気付いたローランが呆れた顔で言う。



「あんた、何照れてんだよ。自分が期待してたんじゃないのかい?」


「そ、そんなことはない! 私は、そんなこと……」


 一同はレインの慌てる顔を見て大声で笑った。





「わあ、なんて素敵な馬車!!」


 温泉旅行当日、拠点ホームに迎えに来た大きくて立派な馬車を見てエスティアが声を上げた。全体的に黒塗りで金色のアクセントが美しい品のある馬車。大きな造りで五名全員が座っても十分余裕がある。


「さあ、行こうか。数時間の馬車の旅だ」


 馬車に乗り込んだレインが皆に笑顔で言った。




「なかなか綺麗な所じゃん」


 レインが連れて来た温泉は王都から離れた郊外にある風光明媚な場所であった。

 高原にある若緑色の新緑の木々が美しい場所で、流れる風が心地良く訪れた皆を優しく包む。温泉施設はまだ新しい建物でこの地方の伝統的な建築技術を用いた落ち着きのある建物。馬車を降りたレインが皆に言う。



「今から宿にチェックインするが、それ以降夕食の時間までは自由にして貰っていい。エスティア、良ければ私とこの辺りを散歩でも……」


 そう言い掛けたレインの目にエスティアの腕にしがみ付くティティの姿が映る。そして同じくエスティアの横に立ったローランが言う。



「エスティアは借りるよ。たまには女同士で楽しくやりたいんでね。いいだろ、エスティア?」


「え、ええ、はい。そうですね」


 エスティアは戸惑いながらも笑顔で返事した。レインは少し寂しそうな顔をして言った。



「そ、そうか。じゃあ、それでいい。夕食でまた会おう。さ、マルク、我々も部屋に行こう」


 同じく少し寂しそうな顔をしたマルクも渋々レインの後に付いて行った。男ふたりが居なくなった後にローランがエスティアに言う。



「さ、私達も行こうか」


「どこへ?」


 エスティアの質問にティティが答える。


「もちろん、露天風呂。みんなで一緒に入ろ!」


「え、ええ……」


 エスティアは初めての温泉に戸惑いながらふたりの後に付いて行った。

 部屋に荷物を置き、露天風呂に向かった女子三名。更衣室に入るとむわっとした温かい空気が体を包む。

 エスティアは受付で貸して貰ったタオルを持って服を脱ぎ始める。そしてそれに気付いた。



(ああっ、しまった!! わ、私、だったあああ!!!)


 エスティアは脱ぎかけたシャツを手で掴んだまま固まる。じわっと噴き出す汗。ティティとローランは鼻歌を歌いながらどんどんと服を脱いでいく。エスティアは全力で脳を回転させて打開策を練った。



(どうする、どうする!? このまま行けば私が『まな板』だということがバレる。いや、それどころか『胸パッド』などと言う姑息な道具を使っていた事すら知られちゃう!! どどど、どうする、どうする!? タ、タオルでずっと体を隠してやり過ごすか!? それとも魔物の急襲だと言って逃げるか? いや、それよりも単純に仮病を使って部屋に逃げるか!?)



「ね、ねえ、エスティアちゃん……」


 真っ青な顔になって汗を流すエスティア。そんな彼女にティティが同じく青い顔をして声を掛ける。



「エ、エスティア、あんた……」


 今度はローランが青い顔をしてエスティアを呼ぶ。そしてエスティアはようやく二人が自分の名を呼んでいることに気付いた。



「な、何かな……?」


 エスティアが青い顔をしてふたりの方を振り向く。そしてローランが持っているを見て血の気が引いた。ローランがエスティアに尋ねる。



「こ、これなんだい? お前の服から落ちたんだが……」


「うぎょがひゅぎょヴぃうううぅ!!」


 エスティアは声にならない声を出して全身から大量の汗を流した。そして自分の胸を触り、胸パッドが片方落ちてしまっていることに気付く。

 ティティがローランの手にある胸パッドを指でつついて言う。



「や、軟かい!! これもしかして胸に入れてたの? エスティアちゃん」


「は、はひ~」


「エスティア!?」


 エスティアは弱々しく返事をすると真っ赤になってその場に座り込んでしまった。





「いや~、しかしこんな物があるなんてね。驚いたよ」


 露天風呂に浸かる三人。ローランは湯に浸かりながらエスティアのを引っ張ったりつついたりして言った。ティティが言う。


「私もこれを付ければ『魅力的な女性』になれるのかな?」


 エスティアはお湯に顔を半分沈めながら黙ってティティの言葉を聞く。天然巨乳のローランが言う。



「そんなもんしたって無駄なもんは無駄だよ。もっと他のところ磨いて勝負しな!」


「そ、そうかな……」


 ティティは自分の平らな胸を見て小さく言う。ローランがエスティアの後ろに回り込んで言う。



「あんたもだよ、エスティア。そんなもん入れなくっても、ちゃんとレインに揉んで貰えば大きくなるよ!」


 そう言って背後からエスティアのを揉み始める。



「きゃっ!! や、やめて、ローランさん!?」


 恥ずかしさとくすぐったさでエスティアが声を上げる。顔を真っ赤にして逃げたエスティアがローランに尋ねる。



「む、胸って揉まれると大きくなるんですか?」


 ローランが答える。


「ああ、そう言われてるぜ。でも自分じゃダメだ。男に揉んで貰わなきゃな。あはははっ!!」


「……」


 無言になるエスティアとティティ。その視線はローランの天然巨乳に集まる。エスティアが尋ねる。



「じゃ、じゃあ、ローランさんもに揉んで貰ったんですか?」


「は?」


 突然カウンターを食らったローランの体が固まる。ティティも尋ねる。



「どんな男の人なのかな? ローランの揉み手って?」


「そ、それは、いや、そんなもんは……」


 顔を赤くするローランにエスティアが言う。



「私の秘密を知ったんだから、ちゃんと教えて貰いますよ。ローランさんの秘密も!!」


「さ、さあて、そろそろ出るか……」


 そう言って脱衣所に行こうとするローラン。エスティアとティティが言う。



「待て。逃げるなー!!!」


 ふたりは笑いながら逃げようとするローランを追いかけた。

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