27.レインの告白
青かった空が段々と黄金色に染まる黄昏時、王都に帰るふたりが静かに歩く。レインの前を歩くエスティアが尋ねた。
「ソフィアさんって、誰ですか?」
驚くレイン。少しの間を置いてからエスティアに言う。
「マリアさんから聞いたのかい?」
「ええ、一緒にパーティのいたとか、同じ養護院にいたとか……」
質問しながらエスティアは何故そんなことを聞くのか不思議になった。
――私、その
エスティアは前を歩きながらふとそんな自分を不思議に思った。レインが話始める。
「ソフィアは私の、そうだな、幼馴染になるのかな」
「幼馴染?」
「ああ、私より少し後に養護院にやって来て、一緒に育ったんだ」
無言のエスティア。暖かな
「私と違って魔法が得意な子で、頭のいい女の子だった。何度か魔法を教わったが私は全く駄目だったな……」
「その子を幸せにしろって……、マリアさんが……」
エスティアは前を向きながらレインに言う。レインが笑って答える。
「ああ、言われた。でも、仲も良くてパーティにも居て貰ったが、私にそんな気はなかったよ」
「どうして?」
エスティアが不思議そうに尋ねる。レインが答える。
「私は心に決めた人がいるんだ。まだ見ぬ人なんだが……」
(ん? 何それ? 意味が分からないわ……)
無言で考えるエスティア。レインが言う。
「結局、前のパーティは魔王に負けて、ソフィアには愛想を尽かれたのか私の前から居なくなってしまったんだ」
エスティアは複雑な気分でその話を聞いていた。いい加減な男なのか、適当なのか、どこかおかしいのか。レインが言う。
「まだどこかで冒険者を続けていると噂を聞いたことはあるが、私は知らない。でもそれでいいと思っている」
「そう……」
エスティアはそれ以上何も言わなかった。聞く必要もないと思った。
夕日は完全に沈み、やがて暗い夜空が空に広がり始める。同時に輝きを増す星達。ふたりは再び無言で歩き出す。レインはそんな星空を見ながら心の中で語りかけた。
(……なあ、ラスティア。お前は一体どこにいるんだ?)
レインが前を歩くエスティアを見つめる。
(君がラスティアなのか、それとも全く違うところで生まれ、誰か見知らぬ人に微笑んでいるのか……)
レインは薄暗い中、エスティアの首のハートのアザを見つめる。
(女神の言う通りなら君がラスティアなんだろう。だけど君は私を見ても全く反応を示さないし、性格こそ多少似ているところはあるがラスティアだった頃の記憶は全くない。だから君がラスティアだという確信は私にはない)
レインは怪我をしたエスティアの太腿を見つめる。
(ただ、ただ思うのは、ラスティアを愛したのは『レビン』であり私ではない。そして……)
――私、レイン・エルフォードは『エスティア・グラスティル』を愛している。
(君がラスティアの生まれ変わりならそれは嬉しい。ただ、もし仮にそうでなかったとしても、私はエスティア、君を愛している。そう、初めて面接で会ったあの時から……)
エスティアは先程から無言になったレインへと意識を集中させている。そして感じるレインの視線。エスティアが思う。
(な、なんか見られてる……、どこ? ん? ええっ、私の足? 子供の服から露出した私の太腿をずっと見てるの? た、確かにちょっと少し色っぽいけど、いや、ど、どうしよう……)
エスティアは歩きながら刺さるようなレインの視線を感じつつ顔を赤らめる。見られて恥ずかしいのだが、少しだけ嬉しい気持ちも同居する。何だかモゾモゾとおかしな歩き方をするエスティアにレインが言った。
「エスティア」
「は、はい」
エスティアは立ち止まり後ろを振り向いて返事をする。レインが真面目な顔をして言った。
「私とお付き合いをして欲しい」
「へ?」
何を言っているのか全く分からないエスティア。レインが続けて言う。
「ずっと君の傍に居させて欲しい」
(え、えええええええええ!!!???)
エスティアはようやくその意味を理解する。そして様々なことが頭を巡る。
(い、いやいやいやいやっ、彼は勇者だよ? 勇者レイン! な、何で私なんかと!? あ、遊び? からかっているの? 太腿効果? あっ、それとも、魅了!? 魅了に掛かったの、私の? いや、それならそれで嬉しんだけど、ちょ、ちょっと急展開過ぎない!? 『ずっと君の傍に』だって!! ひゃ~、ど、どうしよう!? イ、イケメンだし、強いけど、そうだ。彼は人身売買の幹部、そして私の暗殺目標。殺さなきゃならない対象、そ、そうだわ。それなら、答えはひとつ……)
エスティアはレインの顔を見て言った。
「はい、喜んで」
(えっ、ええええええええ!!! なんで受けちゃってるの? おかしいでしょ? 断るべきでしょ、暗殺対象よ!? 明るい家庭でも作る気? いやいいや駄目駄目!! ダメ、駄目だけど……、嫌われるよりは、いいのかな。傍にいればいずれ悪事の尻尾を出すかもしれないし……、そうよ、そうそう。近くにいるのはその証拠を掴むため。だから近くにいる。出来るだけ近くに。そうだわ、私、賢いぞっ!!)
「ほ、本当にいいのかい? 良かった……」
レインは少し下を向き目を赤くして喜ぶ。そして言う。
「断られたらどうしようかと思ったよ。無理してないかい? 断ってもパーティから追い出したりはしないよ?」
「あ、いや、そんなこと……」
エスティアはまだしっかりと考えが整理できない頭で返事をする。
「エスティア!」
「きゃっ!」
レインは目の前にいるエスティアを力強く抱きしめた。心臓が張り裂けそうになるエスティア。そして自分がある事を期待しているのに気付いた。
「ん、んん……」
レインはそんなエスティアの期待に応えるかのように、頬に手を添え躊躇なく唇を重ねた。
(エスティア、エスティア……)
レインはその小さな体を強く抱きしめ、心の中で何度も目の前の女性の名を呼んだ。そして思う。
(私は君の前では勇者でも何でもない。ただの野獣だ……)
レインに口づけされるえエスティア。その逞しい体に触れながら思う。
(……私、こうされるのを、待っていたんだ)
レインに口づけされ、全身の力が抜けていく。力強いレインの唇。前回と違って今度は荒々しい口づけ。エスティアはそんな彼の唇の前に完全に腰砕けになってしまっていた。そして自分に言い聞かす。
(これは仕事、任務の為。だから私は彼のことをいっぱい知って、彼の傍にいて、私を好きにさせて、私も……)
それ以上の思考は大きすぎるレインの存在を前にかき消されてしまい、もはや彼に身を任せるしかなくなっていた。
(私は君を守る。今度こそ、必ず君を守る。それが今の私のすべてだ)
レインは更にエスティアを激しく抱きしめ、その心に彼女を守ることを強く誓った。
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