第4章 夢の場所

第19話 夢のランド

 雪乃さんと同居を始めて、3週間がすぎた。


 学校から帰ると、雪乃さんと勉強会をして、家事をやって。雪乃さんの手料理を食べて、夜は夏川ひよりちゃんの配信を見て。


 配信後は雪乃さんの反省会に付き合って、愚痴を聞いて。

 反省会からの流れで入浴してから、寝る。

 そんな生活にもだいぶ慣れてきた。


 中間テストも終わって、気が抜けた金曜日の昼休み。


 明日花と弁当を食べていたら、僕のスマホが鳴った。

 桜羽さんからのLIMEだった。


『試験終わって暇なんでしょ~?』


 僕は雪乃さんお手製唐揚げを頬張りながら、返事をする。


『ひよりちゃんと、まりぃちゃんの配信を見返すから忙しい』

『ありがとうと言いたいけど~』


 陽キャ仲間とすごしていた桜羽さんは僕の方を見た。僕に不満があるようだが、人前なのか態度には出さない。さすが、天然の陽キャ、常に人目を気にしてるらしい。


 ――ピコーン!


「夢るん、友だちいないはずなのにLIMEがうるさいって、どゆこと?」

「明日花、僕にも友だちぐらいいるんだぞ」

「イマジナリーフレンドやな」


 明日花の相手をしながら、スマホを見る。


「否定しないってことは、ホンマなんや」

「うっせぇ」

「暴力的やなぁ。そんなにあーしの乳を揉みたいの?」

「はっ、揉めるだけの乳なんかねえだろ」

「これでも、Dはあるんやで」


 明日花さん、下から手で胸をすくい上げる。数日前から夏服にチェンジしているのもあって、豊かな双丘が協調された。


(マジでDはありそうだな)


 おっぱいに気を取られて、『OK』のスタンプをしまった。

 数秒後。またしても、LIMEが来た。


『言質とったよ~』


 LIMEを見てみたところ。


「あっ」

「夢るん、どうしたんや?」

「おまえの胸のせいで、日曜日、『夢のランド』に行くことになってしまった」


 夢のランドとは、夢が詰まった遊園地である。


「おっぱいで夢を見られるんだから、最高やな」

「さすが、おっぱいの力って感じ」

「Dカップには夢が詰まってるんやで」


 恥ずかしがるどころか、積極的に自分の胸をネタにしていく女。

 そんなだから、僕は明日花を男友だち扱いしているわけで。

 なまじ美少女なだけに、周囲の目はちがっていて。


「明日花ちゃんのおっぱい、オレもはぁはぁ」

「明日花たん無防備だけど、エロじゃないから実質合法おっぱい」

「あてぃくし、ペンに転生して、明日花さまのお胸に挟まれたい」


 僕が睨まれている。なお、最後の女子は以前は雪乃さんに変態発言をしていた。


「そういえば、夢るん、夢がうんぬんって哲学してたけど、どないしたん?」

「あれか。いまだに夢ってわかんないんだよなぁ」

「まあ、悩むのも思春期の特権や」


 明日花はドヤ顔をする。


(おっさんか⁉)


 いちいち、反応していたらキリがない。


「僕としては、ある人に現実に希望を持ってほしいんだよね。夢を見せるって約束したから」


 思考を整理する意味でも、口に出す。


「なら、それが夢るんにとっての夢なんやな」


 明日花は僕の過去を知っている。

 だから、安心して。


「例の件があったから、僕は悩んでる人を見たくないのかもな」


 本音を漏らせる。


「あーしがVを伝道して正解やったな」

「おうよ、明日花にはひよりちゃんを教えてくれただけでも、感謝してもしきれないんだよな」

「……あらたまって言われると、恥ずかしいんやが」


 攻めに強い明日花さんが顔を赤くしている。


 昼休みも残り時間が少ない。話を進めよう。


「で、僕はその人と夢のランドに行って、楽しんでほしいんだよね」

「じゃあ、その彼女が楽しめれば、彼女に夢を見せたことになるんじゃね?」


 僕はしゃべるのをやめて、明日花の言葉をじっくり考える。

 僕と家族の思い出をなぞったり、僕が愚痴を聞いたり、夢のランドに行ったり。

 それらの活動を通して、雪乃さんが現実が楽しめるようになれば……。


『現実に希望を持ってほしい』という僕の夢も達成できるわけで。


 でも、だからといって、雪乃さんが夢を見たとは言えず。


 桜羽さんとの勝負もだけど、曖昧な条件を設定すると、苦労する。

 煮詰まったら。


 ――ピコーン!


 またしても、僕のスマホが鳴った。


『あたし、夢のランドは両親と行って、楽しい思い出が詰まってるの。翔琉くんと一緒に行けて、楽しいな❤』


 雪乃さんからのLIMEだった。

 当の本人は、すまし顔で文庫を読んでいる。ぜんぜん、うれしそうに見えない。

 あいかわらず、氷の女王はギャップが激しい。


『僕と桜羽さんと雪乃さんの3人で、良い思い出を作ろうな』


 そう打って、返信する。


 数秒後。雪乃さんはスマホを見ると。

 一瞬だけ頬を緩ませた。


 クラスメイトは誰も気づかなかったようで、特にアクションを起こしていない。

 僕だけが胸を高鳴らせた。


「夢るん、デレてどうしたんや?」

「なんでムダに勘がいいんだよ?」


 明日花に応じながら、僕はプランを考え始めた。

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