幕間

第18話 【コラボ雑談】最近のことを話そう~【夏川ひより/秋空まりぃ】

清氷しごおり雪乃ゆきの視点】


 春菜が我が家を訪れた2日後。

 夜9時にあたしは配信を始めた。


「こんばんは〜。ドリーミーカントリー3期生。夏担当の夏川ひよりでーす。今日も元気に暑く配信していきます。まだ5月ですけど、外は暑いですねっ‼」

『うん、めっちゃ暑いね~。気温も、ひよりちゃんのテンションも』


 今日の配信はまりぃちゃんとのコラボだ。土曜日に春菜が家に来たときに、今日、コラボをすると決めた。


「えぇぇっっ⁉ まりぃちゃん、あたし的には普通だよね?」

『……』

「なんで、黙ってるの⁉」


 まりぃちゃんが沈黙するのも無理はない。


(学校だと、あたし、無愛想だもんね)


 ひよりの魂を知らないリスナーさんたちはネタだと思ったらしい。ウケている。


「今日は、秋空まりぃちゃんとコラボなんですけど、雑談ねっ!」

『ひよりちゃん、よろしく~。だーいすきだよぉ~』

「まりぃちゃん、あたしもダイスキ❤❤❤」


:まりひよ、てぇてぇ

:はかどる

:いつ結婚すんの?


 みんなが喜んでくれて、うれしいのだけれど……。

 騙しているようで申し訳なさもある。


(あっ、春菜のことは嫌いじゃないよ)


 あたしみたいなダメな根暗の子にも分け隔てなく接してくれる大切な友人だし。


 あたしが悩んでいるのは、リアルのあたしとキャラがちがいすぎること。

 みんなを楽しませるために、わざとオーバーな演技をしているわけ。


 春菜は学校でも、VTuberでも天然陽キャ。

 自然体なのに、まぶしいほど輝いていて。


 完璧になれないあたしとの落差を痛感させられる。そこが、つらい。


『ひよりちゃん、一昨日は豪華なランチを作ってくれて、ありがとう~』

「ううん、どういたしまして。まだ修行中の身なんだけどね」

『あれで修行中⁉』


 まりぃちゃんは3人で食べたランチのメニューをみんなに語った。


『驚くのは、餃子、春巻き、シュウマイ、麻婆豆腐、全部手作りなのよね~』

「本当はラーメンも手打ちにしたかったんだけど、まだ麺は打てないの」


:料理ガチ勢かよ⁉

:料理配信したら?

:まだってことは、将来的には麺も打つの?


「あっ、半日かけて鶏ガラを煮込んでスープを作ったわ」

『ひよりちゃん、ラーメン屋さんなんですか~?』

「……まりぃちゃん、引いてない?」

『だって、いろいろやることあるのに、そこまで時間かけるのすごすぎるんだもん~』

「そりゃ、愛しのまりぃちゃんに手料理を食べてほしいからだねっ!」


:愛の力がなせる技w

:ラーメン屋コラボ商品をお願いします代です ¥5000


『ひよりちゃん、ちょっと聞いていい~?』

「な、なに? スリーサイズぐらいなら答えるよ」

『ほっ、ほぉ。じゃあ、教えてもらおっかぁ~』

「厳密な数字は公開されている情報を見てほしいけど……お胸はFかな」


 恥ずかしそうに言ったけど、決まった設定なので、特別な感情はない。

 完璧なVTuberとしてファンに喜んでほしいから、演技をしているだけで。

 冷めた心でも、徹底的に演技をするのが、あたしのスタイル。


 一方、まりぃちゃんは心の底から楽しんでいて、あたしとは真逆だ。


 あらゆる点で、春菜とあたしはちがいすぎる。

 なのに、親友なのだから、本当に人間関係は不思議なものだ。

 

:ひよりちゃん、サービス助かる

:夏は水着を期待してますね ¥10000


『おっぱいの話はそれぐらいでいいかな~?』

「まりぃちゃん、ごめんね(ペコリ)」

『ひよりちゃん、料理が好きだけど、料理のどこが好きなの~?』

「いきなり、真面目なの来たね!」


 あたしは配信モードの明るさを保ったまま。


「料理をしてるときだけは、俗世の嫌なことを忘れられるの。だから、夢中になって料理をしてるって感じかな」


 清氷雪乃の本音を漏らす。


『……ずいぶん重い理由だったね~』


 まりぃちゃんは空気が堅くならないように言ってくれた。


:ひよりちゃんなりの冗談w

:ひよりちゃんみたいな子でもストレス溜まるのかな

:ひよりちゃん、無理しないでね


 それでも、一部の人を心配させてしまったようだ。


 また、ミスってしまった。

 リアルのあたしはネガティブだから、配信中は演技で通している。

 けれど、まりぃちゃんの質問にまでウソを吐きたくなくて。


(ホントのあたしを出しすぎちゃダメなのに、あたしダメダメすぎる)


 今日の配信の反省点だ。

 明日にでも翔琉くんに愚痴って、反省会をしよう。


『じゃあ、次の質問ね~』


 まりぃちゃんが気を利かせて、配信を進めてくれる。助かる。


『手料理を誰に食べてもらいたい~?』

「まりぃちゃん」

『私以外?』


 真っ先に思い浮かんだのは、翔琉くんの顔だ。

 ただ、そのまま答えるのは、さすがにまずい。もちろん、翔琉くんの本名を出すわけじゃない。


 身近な男子の存在を匂わせたら、先日以上に大炎上してしまう。

 だからといって、ウソを吐くのも気が引けて。


『ひよりちゃん、どうしたの?』


 まりぃちゃんに心配されてしまった。

 焦ったあたしは。


「べつに、気になる男子に食べてほしいだなんて、思ってないんだからねっ⁉」


(あっ)


 失言したと気づいたときには遅かった。


:気になる男子に食べてほしいんだぁw

:ゆた坊なんだな?

:いや、オレたちへのツンデレって線もある


『ひよりちゃんのツンデレは、みなさんに向けてのものでした~』


 まりぃちゃんの笑い声が、あたしを冷静にする。


「そうなんだっ! たまにはツンデレもいいでしょ?」

『ひよりちゃん、いきなりだから驚いたよ~』

「ごめんねっ。でも、敵を騙すには味方からだって言うし」

『敵は誰なの~⁉』


 まりぃちゃんのおかげで、ミスは冗談になった。まあ、証拠が残るようなミスでなくて、運が良かったというか。


 また、反省点が増えてしまった。

 細かいところも含めれば、今日の配信だけでも30回は気になることがある。

 ホントにあたしダメな子。


(翔琉くんに愚痴ってスッキリしよう)


 彼に話すと気が楽になるから。


 先日の勝負のとき、彼は心の底から味方だと思えた。


 日増しに彼の存在が大きくなっていて。

 ずっと彼と一緒にいたい。


 お風呂も寝室も同じだけれど、それだけじゃ翔琉くん成分は足りなくて。

 子宮の奥がムズムズしてたまらない。


 ミスをしたら彼に甘えられる。

 だったら、もっと失敗してもいいんじゃ……。


(ううん、ダメよ、あたし!)


 プロとしてあるまじき考えを慌てて否定した。

 でも、翔琉くんに癒やされたい気持ちはどうにもならなくて。


『ひよりちゃん、またランチ会しようね~』

「うん! 次回までには料理の腕を上達させるよ!」

『うわっ、ガチ勢の意識パないよ~』


 配信が終わるまで、あたしはまりぃちゃんに助けられていた。

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