第15話 推しと親友

「付き合ってないはずなのに、下着を選んでるの~?」


 桜羽さん、親しみやすい笑顔が逆に怖い。


「もしかして、友だちなのかな~?」

「「……」」

「ほら、エッチをする友だちって奴だよ~」


 桜羽さんは盛大な勘違いをしている。

 僕と雪乃さんがポカンとしていたら。


「なに、その反応~」


 桜羽さんはペコリと舌を出し。


「だって、陽キャグループと話してると、遊んでる子もときどきいるから~」


 バツが悪そうに金髪をかく。


「陽キャ、怖い」

「あたしたちとは別世界の生き物ね」


 僕と雪乃さんは引いていた。


「でも、夢咲くんは学校で明日花ちゃんとイチャついてるじゃない~?」

「えっ? 明日花と僕がいちゃついてる?」

「自覚なかったの~?」

「あいつとは趣味が同じ友人だから」

「……それ、本気で言ってんの~?」


 桜羽さんに呆れられてしまったようだ。


「最近、雪ちゃんの様子がおかしいから気になってみたら、鈍感くんと謎の関係になってたなんてね~」


 深くため息を吐くと、制服を持ち上げる膨らみもつられて動く。

 雪乃さんも巨乳だけれど、桜羽さんは一回り大きい。

 なお、鈍感なのは事実なので、あえて受け流す。


「雪ちゃんが心配で、尾行して正解だったわ~」

「尾行してたの?」


 下校中に感じた謎の視線は桜羽さんだったのか。


「夢咲くん、鈍感オタクな振りをして、女の子といちゃつくラブコメ主人公さん」

「僕、ラブコメ主人公なの?」

「教室で抱きつかれるとか、女子の下着を一緒に買いに行くとか、どう考えてもラブコメ主人公だよ~」

「うぐっ」


 少しずつ僕への当たりが厳しくなってきた気がする。


 言えない。同居して、お風呂や添い寝までしているなんて。


 僕と雪乃さんが同居していることは隠し通したい。

 納得できる説明をするのが大変そうだし。


「雪ちゃん、草食動物に見えて女子を食いまくる彼に、変なことされてない~?」


 あからさまになってきた。


「ううん、彼からなにもしてないわ」

「その言い方だと、雪ちゃんからしてるの~?」


 清氷雪乃は学校モードの無表情な顔で。


「翔琉くんの下着を買うのに付き合ってたら、あたしもほしくなって、彼に選んでもらってたの」


 平然とのたまわった。


「「……」」

「他には、一緒に寝たり、お風呂に入ったりもしているわ」


 さらに、爆弾を放り投げてしまった。


「一緒に寝る? お風呂?」


 桜羽さんは目を見開く。


「もしかして、恋人じゃないって否定したのは、夫婦だから~?」

「僕15歳だよ」

「あたしも15歳」

「恋人でも夫婦でもエッチフレンドでもないのに、意味がわかんない~」


 桜羽さんは頭を抱えた。


「っていうか、一緒に住んでるってわけ~?」


 コクリ。雪乃さんはあっさりとうなずいた。


「うぅ、親友がおかしいよぉ」

「まあ、僕も変だと思ってる」

「学校でクールなフリして、面白い子なのは知ってたけどさぁ、まさか男子と同居してるなんて想定外だよ~」


 桜羽さん、かなり困惑されていらっしゃる。


(どうしようか?)


 同じクラスになって1ヶ月半。まともに話したのは今日が初めての僕には荷が重い。

 雪乃さんに目で話しかける。


「翔琉くんはあたしの愚痴聞き役」

「そう、愚痴聞き役」


 雪乃さんに便乗した。


「愚痴聞き役がお風呂まで一緒って意味がわかんない~」

「裸と裸のお付き合いをとおして、あたしの体が愚痴を言ってるの」

「雪ちゃん、服を着て、愚痴を言えばいいじゃない~」

「裸じゃないと見えないモノもある。裸だけに」

「もう、やだ~!」


 桜羽さんは涙目になると。


「夢咲くん、信じていいの~?」


 僕を指さす。


「信じていい」


 僕は即答していた。


「説得力はないかもだけど、雪乃さんに変なことはしない」


 断言した。

 だって、僕は雪乃さんを守るって決めたから。

 夢を見せるって誓ったから。


「雪乃さん、クールに見えるけど、変なところがあって。落ち込みやすくて、でも、あまり感情を見せようとしない」

「よく知ってるのね~」

「事情は言えないけど、僕は雪乃さんの寂しさに触れたんだ。だから、放っておけなくて、力になりたいと思ってる」


 この場を上手く取り繕いたい気持ちは消えていた。


「夢咲くんが真剣なのはわかったわ~」


 想いが届いて、ほっとしたのもつかの間。


「でも、私にとっても雪ちゃんは大事な人なの~」


 桜羽さんは雪乃さんの様子がおかしいと言っていたけれど、正直よくわからない。桜羽さんがそれだけ細かいところを見ていたのだろう。

 雪乃さんを大切に思っているからこそ。


「VTuberとしては同じ事務所の同期。トラブルになって仕事に支障が出たら、私も困る~」


 感情で動くだけでなく、冷静さも併せ持ち。


「だから、悪いけど、簡単に夢咲くんを信じてあげられないの~」


 僕は安心できた。

 数時間前までは雪乃さんに友だちはいないと思っていた。

 けれど、こんなに良い親友がいて。


 厳しい目を向けられても、不快な気持ちは全然なかった。


「夢咲くん、勝負しない~?」

「勝負?」

「勝負を通して、雪ちゃんへの想いを見極めさせてもらうわ~」

「ちょっと、春菜」

「雪ちゃんは黙ってて」


 雪乃さんはしゅんとした。


「悪いけど、口ではどうとでも言えるから、態度で示してほしいの~」

「僕の態度が信用に値すると認められたら、どうなるんだ?」

「雪ちゃんと夢咲くんの同居を応援するよ~」

「逆に僕が信用できないとなったら?」

「学校と運営に報告して、同居をやめさせるから」


 それはまずい。

 しかし。


「わかった。勝負受けてたつ」


 最初から逃げるつもりはない。


「翔琉くん⁉」


 雪乃さんとしては親友と、同居人が争うのを見ていたくないのだろう。しかも、自分を巡ってなのだ。


「大丈夫。桜羽さんに僕たちのことを応援してほしいから」

「私は雪ちゃんが泣くのを見たくないから~」

「僕もだよ」

「本心からだったら、うれしいんだけどなぁ~」


 オロオロしていた雪乃さんは、大きくうなずく。


「ふたりがそこまで本気なら、止められないわね」


 こうして、同居生活を守るために勝負することになった。

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