武術科試験の翌朝、言いがかり
「うぅう、胃が痛いよぉ」
「調子に乗って見誤るからだ」
「そう、なんだけどぉ。……いい!」
朝一に交わされる声。胃痛を訴える声に一番早く返答したのは痛烈な指摘だった。
ナシェンウィル中央校が所有する寮の一室で使用者たちふたりが会話する。していたが片割れが指摘されたことを肯定したと思ったらずびしっ! と効果音つけて部屋に食事に来ていた同じ学校の友人のひとりを指差した。が、即、行儀悪さを叱られてしまう。
叩かれて机にぶつけた手が痛い。痛かったが、めげない誰かさん――クィースは友人であるザラを指差し直してなんというかこう、罪のなすりつけ? みたいな発言をば。
「ザラのせいだ!」
「イミフ」
「たしかに、どういう理論なの?」
もうひとり部屋にいて朝食をご馳走になっている女の子が口を開いた。これにクィースはよくぞ聞いてくれました、とそのコ、ヒュリアに訴えだした。痛烈指摘者は無視するに決まっている。例え、聞いてくれたってまたお得意の「イミフ」としか言わないし。
だが、ヒュリアも訊いてくれたのはお義理なのであまり期待はしすぎないでおく。
「ザラが美味しそうに食べまくるから、あたしがつられて食べすぎちゃったんだよ」
「えっと、どういうこじつけかしら?」
クィースの言い分にヒュリアもザラもそしてもうひとり、食事をつくってくれるクィースの相部屋相手で、お世話係のシオンは呆れた。どういうイミフ責任転嫁だっつの。
三人の反応にクィースは不服だぷー、っと膨れてみせたが全員に黙殺されました。
構うのが面倒臭い、というか早く食べて登校しなければならないのが約二名いたので無視した。が正しいかもしれない。シオンとザラは今日日直業務があって忙しいのだ。
おバカなお間抜け阿呆に構っていられない。そのように結論して決着しているのでシオンは一足早く食事を終えてロライにもう定番飯になっている猫まんまを山盛り用意。
美味しそうにまぐまぐ食べるロライをちょっと撫でてやってシオンは食器を片づけ茶を淹れる。さて、クィースの話題に一応触れておくと、食べすぎたのは昨日の夕飯だ。
昨日、武術科の成績つけ直しの試験があったんだが、全員が良、合格の中でも上から二番目の成績でクィースにいたっては一番上の優がついたのを祝ってくれる、と言ったシオンが焼肉店で奢ってくれた。わざに調べてくれたらしく庶民向けで学生向けの店舗。
学生講師であるシオンの溢れんばかりの心意気に生徒全員、喜んでゴチになった。
シオンの奢り、ということで数名シオンの財布を気にしていたがシオンは「団体割と学割が適用になるし、この程度は私の稼ぎからしてはした金である」とぶっちゃけた。
まあ、たしかに。シオンは金を使わないのもあり、貯蓄額も結構なものであった。
そういうわけでわずかにあった遠慮も消えた腹ペコ学生一四人と小食講師ひとりとで予約店に向かい、先んじて宣言した通りシオンは肉二、三枚と茶碗に小盛のご飯でご馳走様した。が、他は育ち盛りの学生たちで内三名は食べ盛りの男子たち。食い尽くした。
店を任せられている男性は急遽系列店にへるぷ! して肉をわけてもらう手配をしたがそれでも食い尽くしてしまった。ホルモンも残らず余さず。店長の卒倒しそうな顔。
それが今でも浮かぶが、この日まで頑張ってきたんだからと女子も食事制限? 今日だけは関係ないもんっ、ということで遠慮なかった。男子はもちろん無限胃袋だしね。
学生たちの「おかわり」を聞く度、あの店長は顔色が変わっていった。最初の、そう序盤頃は余裕で大口だ、とでも思ったのかにっこにこしていた。けど、時間経過で悪化していった。最後の方は蒼白、というか青紫のような不気味フェイスになっていらした。
店に他の客はいなかった。シオンが普段のザラを見ていたので一応の予防措置で貸切を頼んでいたのだ。制限時間――三時間――の内は居座らせてくれ、と言っておいた。
ある意味よかったかもしれない。生徒たちが満腹になって店をでる時、さらに別地区にある店から応援で肉が届けられたが、もう、会計をする店長さん真っ白だったから。
口では「ありがとうございました」と言っていたが本心はどうなのやらであった。
そういうわけで、昨日は食べすぎたクィースだけど朝食は普通に食べられている。てっきり入らない~、とか言ってザラにさらなる文句、かと思ったが……。別に特にだ。
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