猫の手を借りたら散々な目に遭った件について

亜未田久志

猫といえば


 猫の手も借りたい。

 なんて言葉がある。

 だから俺は借りてしまった。

 忙しかったから。

 『使い魔』の猫を召喚し。

 魔術の手伝いをしてもらおうと。

 だがしかし。

 その猫が。


「吾輩に何かようか」


 夏目漱石先生のとこの猫だったのだ!!??

 どうしよう。

 早いとこ戻さないと歴史から名作一作失われてしまう。


「いえ、間違えました」

「間違えた、か、面白い事もあるものだ」

「……」


 こんな性格だっけ吾輩さんって。

 夏目漱石先生の作品を読んだのはいつ以来だろうか。

 正直、この猫が本人(人?)かは定かではないが。

 このままでは事態は好転しないだろう。

 俺は退散の呪文を唱えようとする。

 と。


「む、あれはなんだ」

「え……? ああ、俺の妻ですよ、死んでますけど」


 そう、妻は死んだ。

 病だった。

 だから九つの命を持つ猫の命を一つ貰い、妻を蘇らせようとした。

 その事を吾輩さんに説明する。


「面白い事もあったものだ」

「そんな愉快な話でした?」

「私でよければ力になろう」

「いやいやマズいですよ、先生の作品に帰ってください」


 媒介に本を使ったからって本人が出て来るとは思わなかったのだ。

 

「作品、とは」

「しまった」

「なにやら複雑な事になっているらしい。もっと楽しい話をしよう」

「いや……」


 一刻も早く召喚をやり直して妻を蘇らせたいのだが、そもそも夏目漱石先生のお話は喋る猫のお話ではないのだが? 今更な疑問に気づく。


「なぜ喋れるんです?」

「喋ってるように思えるだけではないかね」


 ハ〇ヒのシャミセンみたいな事を言い出した!?

 そうか、ようやくわかった。

 本を媒介にしたせいで、こいつは「書籍に出て来る猫」の集合知みたいになっているのだ。なら罪悪感は……ない。


「儀式を始めます。ちょっとくすぐったいですよ」

「む、もうか」


 蝋燭に火を灯し、魔法陣を囲む中心に猫さんを配置、別の魔法陣に妻の遺体を配置。これで完了。


「我、九つの命と契約せん――」


 たっぷり長々と呪文を唱え、猫さんが消える。

 えっ消えた!?

 妻がむくりと起き上がる。


「これが人の体か」

「ちくしょう!!」


 よくあるオチだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫の手を借りたら散々な目に遭った件について 亜未田久志 @abky-6102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ