変身!

亜未田久志

ユア・マイ・ヒーロー!


 ――僕は皆のヒーローにはなれない。けど、君だけのヒーローにはなれる。


 そう言って彼は死んだ。私に臓器を渡すために。私は心臓の病を患っていた。現代医療では心臓移植以外では助からないと言われた。ドナーは見つからなかった。そこに現れたのが彼だった。彼は名を「メタ」と名乗った。

 私、猫野紬ねこのつむぎは彼が人間じゃない事にすぐ気づいた。

 

「やあツムギ、君を助けに来た」

「あなたはだあれ?」

「僕はメタ、君だけのヒーローだ」

「ヒーロー?」


 彼は頷いた。そして少し話をしようと持ち掛けてきた。


「僕はどんな体にでもなれる超能力者なんだ。メタモルフォーゼって知ってるかい?」

「知らないわ」

「僕は男にだって女にだって両性具有にだってなれる」

「りょうせいぐゆう?」

「そこはいいのさ」


 彼との談笑は続く。


「君はまだ若い人生を諦めるのは早いのさ」

「そうかしら、私は人生に満足しているわ?」

「いいや、君は井の中の蛙だ。大海をまだ知らない」

「そうなの?」

「そうだとも。だから僕の命をあげる」


 えっ? という暇もなかった。

 彼の姿が変貌する。それは私だった。

 鏡写しの私がそこに居た。


「これでいい。ただしこの体の心臓はとても健康なものだ」

「待って」

「待たない」


 彼は微笑むと、自分の胸に腕を突き込んだ。ぬるりと胸の中に入り込む腕。心臓が抜き取られる。脈動する心臓が彼の手に握られている。


「痛みは無いよ。手術より安全だ」


 今度はメタの腕が私の胸にぬるりと入り込み、心臓を交換したのが分かった。

 そうしてメタは私の病弱な心臓を受け取った。


「別れが辛いかもしれないが、これからの僕の余命に、付き合ってくれるかい?」

「ありがとう、そしてもちろん付き合う、いや付き合わせる。私を健康にした責任取ってもらうんだから」


 私は彼の死までの一年間を共にした。

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変身! 亜未田久志 @abky-6102

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