戦火に二人別たれて

亜未田久志

僕ら低空を飛び続けた


 戦火は広がった。

 僕らは敵同士になった。

 戦場で再会して。

 互いに銃を向け合って。

 友達同士で撃ち合った。

 引き金は重く。

 鉛の弾は体を貫く。

 焼野原に広がる硝煙の香り。

 僕は友達の手を握る。

 弾は彼の腹部を引き裂いていた。


「どうしてこうなっちゃったのかな」

「わからないけど、君が無事でよかった」


 僕は涙を流す。

 どうしてもあの引き金を引いた自分が許せなかった。

 彼は引き金に手をかけてもいなかったのに。

 銃を持つ彼がすごく怖かった。

 もう敵なんだと思った。

 本当なら出会いたくなかった。

 でも出会ってしまった。

 そして別れが訪れる。

 彼の体がだんだんと冷えていく。

 僕は止血しようとする。

 それを弱弱しく止める彼。


「敵を治療したなんてばれたら軍法会議ものだろう?」

「そんな事言ってる場合じゃ……!」

「大丈夫、自分の体の事は自分がよく分かってる」

「僕は……! 僕は……!」


 サバイバルキットから、包帯を取り出し止血する。白い包帯が赤黒く染まっていく。


「あーあ、これで君は戦犯だ」

「そんなこと言ってる場合じゃない!」

「僕はね、君と出会えてよかったと思ってる」

「え……?」


 彼は血を吐いた。

 僕の顔にかかる。

 彼の死期を悟る。

 悟ってしまう。


「ごめん、顔にかかるとは思わなかった」

「君の血、冷たいんだね」

「ひどい事言うなァ」

「僕は君に殺されるんだと思ってた」

「僕は君に殺される事を望んでた」

「え……?」


 彼は血を吐きながら続ける。


「ずっと、ずっと、生きているのが辛かった、戦争の止まない国、友達と引き裂かれる事、もう嫌だった、こんな世の中に存在するのが嫌だった」

「だからって」

「死に方くらい選びたかった。出来るなら、最愛の友の手で――」


 彼はそう言って息を引き取った。

 僕の慟哭が戦場に虚しく響いた。

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