第124話 真の絆とは

 真一は、ミノリが来てくれたことが嬉しかった。しかし、すぐに今はそれどころではないことを思い出す。

「ミノリ逃げろ! 七志ナナシが来てるんだ! ヤツの攻撃にやられて、僕はもう動けない!」

「七志? ううん、いないよ。ここにいるのは私だけ」

どういうことだ。七志の声や体を縛られる感覚は幻覚なのか。

『ボクの姿は彼女には見えナイ。彼女は気づいていないだけサ』

「真一はどこも攻撃されてなんかいない。ちょっとだよ。ほら」

ブチっと、何かがちぎれる音がすると共に、真一を縛る力が少し弱くなるのを感じた。しかし。

「ダメだ……まだ動けない!」

依然として、真一の手足は動かせない。

「分かった。今、全部のツルを切るから」

ミノリがそう言うと、ブチブチという音が聞こえてきた。

『あァ、無駄なコトをしちゃったネ。そんなヒマがあったラ、キミを見捨てて他の二人を助けに行った方がいいのにサァ。この間に、マサキとダイチはもう殺されてるかもしれないヨ?』

再び七志の声が耳元で響く。

「ミノリ、僕のことはもういい! 雅輝まさき大智だいちの所に行って……」

「イヤだっ!」

ミノリは、真一の言葉にかぶさるようにして叫んだ。

「大声出してごめん。でも私は、真一を助けることをやめないから!」

ツルを引きちぎるような音はさらに大きくなり、真一の耳に飛び込んでくる。その音に紛れて、ミノリの吐息が聞こえてくる。彼女の細腕では、道具もなしにツルをちぎるのは困難であろう。それにもかかわらず、ミノリは息を切らせながらも真一を助けようとしてくれる。

「そんな……ミノリ、どうして?」

「真一は、さっき助けてって言った。私はみんなと一緒に攻撃に参加することはできない。みんなを支えることしかできないの。だからこそ、助けてって言っている真一を、私は絶対に見捨てない!」


 真のきずなとは。真の仲間とはなんであろうか。

 真一は考えた。

 仲間のために行動するのが真の仲間だ。仲間のために自分を犠牲ぎせいにできるのが真の仲間だ。

 真一はそう思っていた。しかし、それは本当だろうか。

 仲間を思い、自分を犠牲にして、それで仲間を救うことができたとして、本当にそれでいいのだろうか。

 それは自己満足ではないだろうか。もっといい道があるのではだろうか。

 

 孤独な真一に、真の絆や真の仲間のことなど分かるはずもない。しかし、そんなものがもしもあるのなら。自分が追い詰められた時、必ずその仲間たちに助けを求めるはずだ。

 今の自分はどうだろうか。

 真一は考えた。

 さっき自分はミノリに助けを求めた。今まで自分一人でなんとかしてこようと思っていた僕が、初めて助けを求めたんだ。そしてそれにミノリは応えてくれた。そんなミノリのために、僕ができることはなんだろうか。

 口を開いた。


「ミノリ……聞いてもいいか?」

「ハァ……ハァ……何?」

「僕の体は、本当に植物のツルに絡まっているだけなんだな?」

「うん……そうだよ」

「分かった。ミノリ、もうツルをちぎらなくてもいいよ。代わりに、僕の剣を探して、持って来てくれないか。きっと、どこかに落ちていると思うから」

「……! うん、分かった!」

草木を踏む足音が、どんどん真一から離れていくのを感じた。

 やがて、その足音も消えていき、聞こえなくなった。

 それでも真一は、ミノリの帰りを待ち続けた。

 何も見えない暗闇の中では、時間の流れが実際よりも遅く感じられる。

もう、七志の声は聞こえない。あれはのだ。

 今の真一に不安はなかった。ミノリは絶対に戻ってくると確信していたから。

 

「お待たせ……真一!」

 ミノリは、真一が思っていたよりも早く戻ってきた。

「ミノリ、剣を、僕の手に!」

「うん。……はい!」

真一は、ミノリから剣を受け取った。見えてはいないが、この感触は間違いなく、真一の堅牢剣けんろうけんつかのものだった。

 真一は、その柄から刃に魔力を流す。

 今、真一を縛っているのは植物のツル。堅牢剣を使えば、簡単に切り刻むことができる。

「ミノリ、少し下がっていてくれ……すぐに終わる」

「うん、分かった」

ミノリの足音が少しずつ遠ざかり、やがて止まった。

 ……いくぞ!


「放て……堅牢剣!」

 真一は魔力の刃を解放し、それで自身の周囲を斬りつける。

 すると、真一を縛っていた感覚が解けていき、真一の体は自由を取り戻した。

「おっと……!」

 急に拘束こうそくから脱した真一はバランスを崩し、倒れそうになる。

 しかし、それを柔らかい感触が受け止めてくれた。

「真一……お帰りなさい!」

ミノリの体から伝わる温もりを、真一は全身でめた。

「あぁ……だが、まだただいまは言わない。それは、エンゼルを倒してからだ!」

「うん、そうだね!」

「だけど、今の僕は目が見えない。そんな状態でどこまで役に立つか分からないけど、それでも、僕はみんなと一緒に戦いたいんだ。……ミノリ、そんな僕でも、支えてくれるか?」

「うん! もちろん! ……それに今の真一となら、が使えると思う」

「ミノリの、本当の力?」

「そう。私の、魂結たまむすびのふえの、真の能力」

ミノリの体に、魔力が集まっていくのを感じる。

「行くよ! 魂楽多重奏こんがくたじゅうそうさとり】!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る