第121話 光の柱

 なぜエンゼルの姿が変わったのか、なぜ雅輝の攻撃を受けても生きているのか。それらの謎を解明するためには、戦いの中で相手のことをより深く調べる必要がある。そのためには継続的な戦闘が不可欠だ。もちろん、一撃必殺とも言える攻撃力を持つエンゼルを相手に継続的に戦闘をすることは困難だ。しかし、真一は自らその役を買って出ようと言うのだ。

 今、戦闘に参加しているメンバーにおいて、真一は周りと比べて飛び抜けた能力は持たない。一撃の攻撃力では雅輝が優れ、機動力では大智が、支援の能力ではミノリが優れている。しかし、真一は攻撃と防御の両方をかなりの高水準でこなせ、雅輝に次ぐ遠距離攻撃の使い手であり、大智に次ぐ機動力がある。これは、エンゼルと真っ向から立ち向かい、なおかつ生存するために必要な条件を全て満たしていた。チームで勝つために、真一は自らに与えられた役割を自覚し、それを正確にこなそうとしているのだ。

 

 エンゼルは周囲に浮遊する光の玉から、弾丸のような光を大量に発射する。真一はそれを無駄のない動きで全て防いで見せた。

 思った通り、この弾丸は高熱の光を投げつけているに過ぎず、その速度は光速ではない。見てからの反応で十分に対処可能であり、威力もそれほどではない。

 対する破壊光線は脅威であった。こちらは威力が高いのは言うまでもないが、攻撃速度は光速そのものだった。自身に向けて放たれたら最後、見てからの反応では決して防ぐことはできない。しかし、この攻撃には予備動作があり、十分に予測が可能だ。エンゼルに翼が生えてから、めに必要な時間が短縮されたようだが、それでも今の真一ならば対応できる。

 また、翼による機動力の増加だが、こちらは一長一短のようだ。上空に逃げられるとこちらの攻撃は届きにくくなるが、エンゼルの攻撃精度は相変わらずあまり高くないため、離れていればあちらの攻撃も届いてはこない。

 最後に、雅輝の攻撃で倒せなかった理由だが、エンゼルには自己回復能力があることが分かった。戦いの最中、真一は何度もエンゼルの翼や腕を切り落とした。しかし、その度に切られた部位は再生し、以前よりも強くなったように見えた。このことから、エンゼルは自己再生する度に強化されていることが分かった。

 自己再生能力があるといえど、無限に再生するはずがない。再生不能になるほどのダメージを与えるか、再生するエネルギーを枯渇させるほどにダメージを与え続ければ、いずれは必ず倒し切ることができるのだ。

 

「じゃぁ、そろそろ決めるか……!」

真一はどっしりと剣を構えた。

 エンゼルは指先を真一に向け、破壊光線を放つ準備をしている。

 

 そこで再び聞こえる、ミノリの音。

 様々な音が緻密に重なり合い、重厚感のある響きを形成する。雅輝の発する優雅な音も、大智の発する力強い音も、全てが重なり一つになり、強固な魔力となって真一の剣を支えていた。


 一瞬の火花が散った後、赤い稲妻をはらんだ破壊光線が放たれた。真一はそれを真正面から捉え、魔力の壁で防御する。肌が焼け落ちるような熱と、隕石いんせきを受け止めたような衝撃が体を貫くが、真一はそれでも倒れることはなかった。仲間の音が真一を支え、仲間のおもいが真一に勇気を与えてくれていたからだ。

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 真一の叫びと共に、魔力の壁はさらに強固なものとなり、銀の光を発して輝き出す。その光は、破壊光線のエネルギーを吸収してさらに輝きを増していく。

そうして真一は、ついにエンゼルの破壊光線を防ぎ切った。

 

 光線が消え、魔力の壁も消え、あたりは一瞬の暗闇に包まれる。そして、その暗闇と静寂を切り裂いたのは、真一の搾り出すような声だった。

「放てぇ……うぅっ……堅牢剣っ!」

現れたのは天にも届くほど巨大な光の柱。その黄金の光は破壊光線の何倍もまばゆく周囲を照らし、その熱気は木々の葉を燃え上がらせた。真一はかすみかけた目でまっすぐにエンゼルを捉え、ふらつく足を精神力で安定させ、手の震えを払いのけ、光の柱を振り下ろす。

 地震のような振動と、雷のような轟音ごうおんと共に地面は砕け散り、悪鬼エンゼルは、その光の中へとまれていった。



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