第116話 もっと強いし、もっとキレイだ!
エンゼルの体に膨大な魔力が集中する。その魔力は彼女の指先に集まり、次第にまばゆい光となる。
「来ます!」
吹き飛ばされ、立ち上がると、辺りはサウナの中のような熱気と
地面は深くえぐれ、木々は倒され、その赤く焼け焦げた傷跡が視界の果てまで延々と続いていた。そして何よりも恐ろしかったのは、その傷跡が真一の隣わずか一メートル地点にできていたことだ。もしもエンゼルの狙いが正確だったならば、今の攻撃で真一は灰になっていたであろう。
「第二波来ます!」
再び雅輝が叫ぶ。
また同じ攻撃が来るのかと真一は身構えたが、敵がいるのとは逆の方向からの衝撃が真一を襲う。
「みんな! ケガはない!」
一瞬驚いた真一だが、すぐに状況を把握した。
少し遅れて再び響くエンゼルの攻撃音。ビリビリとした空気の振動は遠く離れていても痛いほどで、その攻撃の威力を物語っている。そして何より真一たちを驚かせたのは、エンゼルの攻撃の正体だった。
エンゼルの指から放たれたのは、直径一メートルほどの巨大な破壊光線。白く輝く光線本体を中心に、激しくほとばしる真っ赤な
「何だよあれ……まるで……」
真一は震える唇で言葉を紡ぐ。
「まるで、
つい先日、真一は御月を相手に一方的にやられている。そのとき、御月は本来の光の力を使ってはいなかったが、そんな手加減をされた状態の彼女にさえ、真一は歯が立たなかったのだ。それなのに、本来の光の能力を使う
「はぁ……何を言っているんですか? 真一さん」
「そーだそーだ!
「はぁっ⁉」
雅輝と大智の予想外の反応に、真一は思わず過剰に反応してしまう。
「真一さん……あのですね」
「みっちゃんの攻撃はなぁ……」
「「もっと強いし、もっとキレイだ!」」
「……はぁ?」
二人の反応に対して、真一はあきれたように声を漏らす。
「いいですか真一さん。あの悪鬼は今、魔力をためてから光線を放ちました。ですが、御月さんならノーモーションでより強力な光線を同時に数十発は撃てるはずです」
「それに狙いも定まってないあんな攻撃、全然怖くもなんともないね! 確かに、威力だけはすごいけどさぁ」
「総じて、攻撃の出が遅い、狙いも定まっていないと、弱点が多過ぎです」
「あんなのとみっちゃんを一緒にすんなよ!」
「御月さんは完全無欠の究極最強ですから!」
「……」
真一は押し黙った。この二人の発言は、一見ふざけているように見える。しかし、極めて冷静にエンゼルの能力を分析し、その弱点まで見抜いていた。彼らの余裕そうな表情を見るに、すでに攻略の糸口はつかんでいるようにも見える。それに対して真一は、相手の攻撃の威力に驚くばかりで、何の対策も立てられていなかった。これが実戦経験の少ないC級の真一と、経験豊富なS級の彼らとの差なのかもしれない。
「……ですが」
と、少し間をおいてから、雅輝は目を細めながら口を開く。
「確かに、ほんの少しは御月さんに似ていますね……見た目も」
「だよね~」
と、大智もエンゼルの方を見つめながら少し不機嫌そうに答える。
「だからこそ、なおさらムカつくな~。みっちゃんのニセモノと戦ってるみたいで」
「まぁ……」
「でも……」
雅輝と大智は同時に付け加えるように口を開く。
「昔の御月さんの方が一千倍美しかったですがね!」
「今のみっちゃんの方が一億倍かわいいけどなぁ!」
二人は口をそろえて御月を絶賛する。御月の記憶内で見たように、やはり彼らは今でも彼女のことを好きらしい。
「……」
その様子を見て、真一は再び絶句する。エンゼルの強さに驚き、雅輝と大智の冷静さに驚き、そして彼らの御月に対する強すぎる愛に驚き、開いた口が塞がらない。
真一は頭をぶんぶん振るい、呼吸を整え、目を見開き、自分を平静に戻そうとする。そして真一の頭に、ある疑問が浮かんだ。
なぜエンゼルは御月に似ているのだろうか?
「悪鬼はたまに、標的にしている人物の姿に似る場合があるの」
ミノリは真一の疑念を察したのか、エンゼルの姿を見つめたままそう答えた。
「なるほど、御月さんがいるのは厳重に悪鬼用の結界の張ってある病院。そこに行けないからと、こんなへんぴな山奥に現れたというわけですか」
「にしてもあの能力はすごいぜ~。今まで見た目はともかく能力まで似せてきたなんて話聞いたことないんだけど?」
雅輝と大智の指摘に、ミノリはしばらく考え込んだのちに、慎重そうに口を開いた。
「悪鬼たちの生態の裏に、何かとんでもない事が起こっているのかもしれない……」
真一の脳裏に、
「それが何かは分からない。でも、今は目の前の敵を倒すことだけに集中しよう!」
ミノリは笛を構える。
「ですね!」
雅輝は弓に矢をつがえ、敵を見据える。
「よーし! いくぞー!」
大智は気合いを入れて
「……あぁ! 僕もやるぞ!」
真一は慌てて剣を構える。
ミノリのかけ声で、四人の心は一つになった。若干真一だけが反応に遅れたかもしれないが、そんなことは誰も気にしてはいない。
「よし、行こうよ、みんな!」
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