新たな戦い。
第111話 夏目透弥
「はぁ……」
家の近所にあるスーパー、その隅にあるフードコートの中で、真一はため息をついた。注文した安いラーメンも食べかけに、真一は物思いにふける。
結局、真一は
だがしかし、依然として真一の抱えている問題は山積みだ。
真一自身、劣等感から解放されてはいない上に、それに対する対処法を見つけられていない。SOLAに残るという選択も、御月に言いくるめられた感が否めない。
モヤモヤとした気分の中、真一はポケットから一枚のメモを取り出す。
『早速だけど、真一くんに隊長からの命令です』
御月は
『あしたの深夜〇時、この場所に行きなさい』
メモに記された場所は、行ったこともない遠くの土地の山奥だった。
『そこはね、星がよく見える場所なの。悩みがあるなら、そこに行って星を見てきて。天気なら心配ないわ、予報では快晴よ』
そう言って、御月はわざとらしいまでに満面の笑みを浮かべていた。真一は直感的に何か裏があると察したが、御月は畳み掛けるように言葉を続ける。
『ほらほら、年上の言うことは聞くものよ! お小遣いもあげるから、ね? これでお昼に好きなものを食べてきて』
そう言う御月の手元には、千円札がヒラヒラとしていた。
そして今、真一はわずか千円で買収され、それを使って安いラーメンをすすっている。安いと言っても味は悪くなく、むしろその独特の味を真一は嫌いではなかった。それは真一の住んでいる地域では有名なチェーン店のラーメンで、具こそ少ないが、一杯五百円程度で食べられてお財布にも優しい。そのため、昔はよく家族で食べに来ていた。
ふと周りを見渡してみると、家族連れの客も多く、みな楽しそうに食事をしている。
「ねーお父さん、ソフトクリーム買ってよ」
一人の男の子が、父親に向かってそうせがんでいるのが見えた。
「あ、私もそれほしい!」
男の子の妹と思われる女の子も、つられて父親にねだる。
「えー? いや、でもお金ないしなぁ……」
父親はしまったという表情をし、隣にいる母親を見た。
「まぁ、たまにはいいんじゃない?」
そう母親が言うと、子どもたちは一斉に喜んだ。
「やったー!」
「ははは、しょうがないな。でも、ミニサイズだけだからな!」
「はーい!」
父親も、困った顔をしてはいたが、子どもの喜ぶ顔を見て、まんざらでもなさそうだ。
懐かしいな、と真一は思った。
真一も昔、父親に同じようにデザートをせがみ、妹の
もしかしたらあの時は、真理奈も自分のことを無条件で好きでいてくれたのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
しかし、今はどうだろうか。おそらく真理奈は、自分のことをあまりよく思ってはいない。何かと敵対心を燃やし、行動に文句をつけ、いちいち突っかかる。自分にとっての真理奈は、御月にとってのミノリのように、無条件で愛してくれる存在にはなり得ない。
「あれっ? 真理奈?」
不意に真一の背後から、少年の声が聞こえた。
「えっ?」
真一は思わず振り返る。
「あっ……すみません、人違いでした。……でも」
真一のことを真理奈と呼んだその少年のことを、真一は知っていた。そしてそれは、少年にとっても同じだったようだ。
「真理奈のお兄さん、ですよね?」
「そう言う君は、確か真理奈の友達の……」
その少年のことを、真一はよく覚えていた。以前、真理奈が友達と一緒に勉強をすると言っていたとき、家の玄関先で出会ったあの時の少年だ。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます