第107話 この愛を狂気だというのなら

「ちょっと……! こんな時にふざけないで!」

御月みつきは顔を赤らめ、たじろいだ。

「ふざけてなんかいません!」

「オレたちは本気だ!」

雅輝まさき大智だいちは一歩も引かない。

「御月さん、私はあなたのことを心から愛しています! ずっと昔から、その思いは変わりません!」

「オレはまさにぃよりも昔から、みっちゃんが大好きだ! 他の誰よりも、みっちゃんが一番好きなんだ!」

飾らず気取らず、まっすぐな思いをぶつけた二人の告白だ。

「バカじゃないの! 私の……戦い以外に何もない私の、どこがいいのよ!」

二人の思いを、御月は受け取ることなど出来はしない。自分には価値がない。自分なんて生きていても仕方がない。そんな思いに取りかれた彼女にとって、自分を愛するという二人の気持ちは理解できたものではない。

「どうせあなたたちが好きなのは私の外見だけでしょ! はっ……! 確かに私、見てくれだけはいいものね。何もない私にも、女ってだけで男のあなたたちにとっては価値があるってこと? ……それで? 傷心した今の私なら少し優しくしただけで落とせるかもって思ったの? 冗談じゃないわ! 私をそんな安い女だと思わないで!」

「「違う!」」

御月の言葉に対して、雅輝と大智は声をそろえて反論した。

「たとえあなたの顔が潰れても、その体が傷だらけになっても、私は心からあなたのことを愛し続けます!」

「見た目じゃない! オレは、みっちゃんが好きなんだ! ずっと一緒にいてくれたみっちゃんが、オレは大好きなんだ!」

「だから御月さん……!」

「だからね、みっちゃん……!」

「「死なないで……!」」


 二人の言葉に、御月は息をんだ。

 何も取り柄のない自分を愛すると叫ぶ彼らの考えと行動が理解できなかった。

「何よあなたたち……頭おかしいんじゃないの?」

御月の顔は引きつっていた。

「この愛を狂気だというのなら、私たちは当然狂っているでしょう……ですが!」

「そう思っているオレたちの心は本物だ! オレたちは本気なんだぁ!」

 御月は愕然がくぜんとした。

 もうこの二人には何を言っても通じない…

 なぜ二人は自分を愛するのか。何もない自分のどこを愛したのか。

 分からない分からない。どれだけ考えても納得できる答えが出ない。

「もう何なの! 何なのよ、あんたたちは!」

御月は叫び、頭を抱える。

「御月さん……」

雅輝は心配して、御月に歩み寄ろうとする。

「近寄らないで!」

御月の放った光線は雅輝の足元を打ち抜き、彼の動きを制止させる。

「気持ち悪いのよあなたたち! もういいの! もういいから……だから私を一人にして! ……っ⁉︎」

そう言って見上げた夜空に、御月は驚いた。

 先ほど御月が全滅させたはずの悪鬼が、再び集結しているのだ。森の中にも多くの悪鬼が潜んでいる。考えてみれば同然のことだ。悪鬼が好む強い心の持ち主が、この森の中には大勢集まっているのだ。ここはSOLAソラの基地のように特殊な結界もない。上級隊員が何人も集まれば悪鬼を呼び寄せてしまう。雅輝や大智はまだ悪鬼たちに気づいていない。このままでは二人が悪鬼に襲われてしまう。

 御月の心配は的中し、空を飛ぶ鳥型悪鬼の内の一体が、雅輝に向かって猛スピードで突進してきた。

「あぶ……ゴホッ! ゴホッ!」

御月は雅輝に危険を知らせようとして、叫ぼうとした。しかし、タイミングが悪く、御月は体に負担をかけすぎたせいでんでしまう。

 雅輝はまだ悪鬼に気づいていない。もう終わりか。そう思った瞬間。


 ♪〜


 が聞こえた。

 それは優しく、強く、温かい音色だった。

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