第106話 告白

 こんなことはやめろ。死ぬな。

 雅輝まさき大智だいちのそんな言葉など、今の御月みつきには響きはしない。彼女の目に見えているのは、自分と違って戦い以外にも才能を持っている者たち。例え戦いを取り上げられたとしても、御月と違って自立しながら生きていけるだろう。

「そんなこと言うなら、私を実力で止めてみなさいよ!」

御月はあおるように声を張り上げる。

「……」

「……」

雅輝と大智の二人は沈黙し、もはや戦意せんい喪失そうしつといった様子であった。無理もない。彼らの実力は御月に遠く及ばない。先ほどの不意打ちが失敗した以上、もはや彼らに勝ち目はなかった。その不意打ちさえ、彼らの全力からは程遠いものだった。雅輝の狙撃はもっと速く正確で、御月の腕が回らない程に大量の矢を放つことも可能だった。それは大智の場合も同様で、彼の操縦技術なら御月が逃げた先に瞬時に手を回すことも可能だった。しかし、彼らはそれをしなかった。おそらく、御月に攻撃することに躊躇ためらいを感じていたのだろう。だが、後悔をしても遅い。御月の前に姿をさらした以上、もう御月は彼らを見逃さない。どこに逃げても、どこに隠れても、必ず見つけて正確に攻撃することができる。

「やっぱり、うまくいきませんでしたね……」

「まぁ、最初から分かってたけどさぁ……」

二人は諦めたように言葉を漏らす。彼らも、自分たちと御月との実力差は自覚していたからである。しかしどうしてか、今の彼らの瞳は希望を取り戻しつつあるように見えた。限りなく無いに等しい希望だったが、それを二人は信じている。そんな瞳だった。

「こうなったら……!」

「プランB、だね……!」

そう言って二人は武器を捨て、御月を真剣な眼差まなざしで見つめた。

「……な、何?」

二人のただならぬ雰囲気を前に、御月はあとずさる。

 相手に武器はない。周りにわなが仕掛けられた様子もない。大空おおぞらとミノリの行方は知れないが、あの二人だけで何かができるとは思わない。つまり、今の二人には何の作戦も立てられないはず。しかし、彼らにはプランBとやらがあると言う。

「御月さん!」

「みっちゃん!」

二人の気合いのこもった声に、御月はビクリとする。一体彼らはこれから何をするつもりなのか。御月の心の不安が募る。

 まさか、隠し持った爆弾で自爆するつもりか?

 そんな考えが浮かんだ。

 自爆は、彼らが御月に一矢報いることのできる唯一の手段だったからだ。

 御月の能力は攻撃に関しては最強だが、防御に関しては全くと言っていいほど効果がない。御月はその弱点を、攻撃される前に攻撃するという方法で補っていた。しかし、もしも回避不能なほどの広範囲の爆発を起こされた場合、今の御月にはそれを防ぐ手段はない。それに、今はこの森のどこかに大空も潜んでいるのだ。大空の結界能力を使えば、爆風を致命傷にならない程度に抑えながら、御月を戦闘不能にすることも可能だろう。それでも、雅輝と大智に大怪我おおけがを負わせることに違いはなく、最悪の場合、死ぬことだってあり得る。

 二人は同時に目をつむり、大きく息を吸い込み始めた。やがて息を止め、カッと目を見開く。

 来る!

 御月は身構える。

 どうする? 雅輝と大智を光線で撃ち抜くか? いや、彼らが死んでしまってはSOLAソラに多大なる損失を与えることになるため、それはできない。しかし、彼らの体のどこに爆弾が仕掛けられているか分からない以上、爆弾だけを撃ち抜くことはできない。

「くぅっ……!」

彼らの覚悟を甘く見ていた。自らの死を覚悟した上で止めにくるなど、御月は考えもしていなかった。


「「好きです! 付き合ってください!」」

 




「…………はぁっ?」

 衝撃と混乱で、御月は間抜けな声を漏らした。

 聞こえてきた音は爆発音ではなく、雅輝と大智による大声での愛の告白。その声は森の中にこだまし、何度も繰り返し聞こえてきた。

「ずっと昔から好きでした! 私と付き合ってください!」

「オレも! 大好きなんだ! みっちゃん!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る