第105話 あなたたちまで

「クッ……ハアァッ!」

御月みつきは光の刃を振り払い、結界ごと大空おおぞらはじばした。大空はそのまま数十メートル先まで吹き飛ばされ、その過程で何本もの木が倒れ、地面は深くえぐられていた。大空とミノリの二人は、結界に守られていたため無傷だった。しかし、吹き飛ばされたさいの衝撃により、地面に倒れ伏してしまった。

「私を止めるですって? はッ! 逃げて守ることしか能のないあなたに、できるはずないじゃない!」

御月はあざけるように言い捨てる。

「そうだな……。確かに私は、守って逃げることしかできない」

大空はよろよろと立ち上がりながら、御月の言葉をあっさりと肯定する。それは、自分の実力を分かり切っているがゆえの潔さだった。

「だったら……」

さっさと諦めろ、御月がそう言いかけたとき。

「だが、今は私一人ではない!」

 大空は手にした鏡を御月に向けた。

 その鏡が一瞬光り輝くと、次の瞬間には大空の姿は消えていた。

「どこに……どこに行ったの⁉︎」

 御月は周りを見渡す。

 先ほど大空が使った鏡は極閃鏡きょくせんきょうだ。時間を操る鏡で、そこに映した対象の時を止めることができる。おそらく大空はそれを使い、御月の時間を止め、その間に姿を消したのだろう。まさか、ミノリと一緒に逃げたのか? 御月の脳裏にそんな考えも浮かんだが、その可能性は低い。大空は御月を止めるためにやってきたのだ。それなのに、ミノリを逃して終わりなはずがない。御月の時を止め、時間稼ぎをしている間に、準備を整えていたに違いない。

「隠れていないで、出て来なさい!」

大空が周囲のどこに隠れていても聞こえるように、御月は大声で叫ぶ。間違いなく、この森の中に誰かは隠れている。御月はその気配を感じ取っていた。


 ヒュンッ


 風を切る音がするのとほぼ同時に、御月は首の後ろに手を回し、飛来してきた物を掴み取った。見ると、それは矢であった。矢尻は細く軽く、殺傷能力は無いに等しい。また、その先端には薬品が塗られていたようで、液体がポタポタと滴っていた。

「強力な麻酔を染み込ませた毒矢……でも、狙いに迷いがあるわよ……」

次の瞬間、御月は大きく退いた。すると、巨大な機械の腕が、先ほどまで御月がいた地点を抱き抱えるようにしてつかみに来た。機械の腕は柔らかい素材で覆われていたが、その手の平からはバチバチと電流が流れていた。

「今度は電気ショックで気絶させるつもり? ……でも、いつもみたいに動きにキレがないわね」

御月は瞬時に攻撃してきた人物とその場所を見極め、二つの光線を放つ。森の奥へと放った光線は、矢を射ってきた人物の周囲の木を切り倒し、その姿をあらわにした。正面に放った光線は、御月を襲った機械の片腕を破壊した。

「クッ……!」

「うわぁっ!」

御月を攻撃してきた人物二人は、それぞれに叫び声を上げる。

「はぁ……」

御月はため息と共に、その二人の姿を見た。

「あなたたちまで私の邪魔をするのね……。雅輝まさき大智だいち……」

御月を襲った人物。それは、ずっと彼女と一緒に戦ってきた幼馴染、雅輝と大智であった。

「御月さん……もうやめましょう、こんなこと」

雅輝は悲しそうに御月を見つめていた。その手には弓が握られてはいるが、もう矢を放つ気配はなく、ただ無気力にだらんと下げられていた。

「みっちゃん! オレ、オレ……! ヤだよ……死んじゃイヤだよッ!」

大智は泣いて顔をぐしゃぐしゃにさせながら叫んでいた。遊浮王ユーフォーの腕は、その拳を握りしめることはなく、わなわなと震えていた。

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