御月の記憶
第102話 顔も見たくないわ
見えてきたのは、八年前の御月の記憶。
御月は当時十歳であった。しかし、その実力は既に圧倒的だった。
「お姉ちゃんすごい! たくさん強い相手がいたのに、全部倒して優勝しちゃった!」
そんなミノリをみて、御月も喜んだ。
「ありがとう
「私のおかげ? どうして?」
「あなたが応援してくれたから勝てたの。あなたがいたから、私は戦えたのよ」
「そうなの? だったら私、お姉ちゃんがもっとたくさん勝てるように、応援するね!」
御月が総天祭で優勝したことで喜んだのは、もちろんミノリだけではない。
「私たちも負けていられませんね!」
「オレたちもすぐ追いついてやるからね!」
「訓練に行きましょう、大智さん」
「うん!」
雅輝と大智はそう言って、訓練場へと向かって行った。しかし、ミノリは彼らの後を追って、訓練場へと行くことはなかった。
「どうしたの御祈? 一緒に行かなくていいの?」
御月は不思議に思って、ミノリに声をかける。すると、ミノリは悲しそうに
「うん……私、お姉ちゃんみたいに強くなれないんだって、
御月は、戦いたくないというミノリの言葉の全てが、彼女の本心ではないことを知っていた。ミノリはいつも言っていた「私、お姉ちゃんの隣で一緒に戦いたいの」と。ミノリは、誰よりも御月と一緒にいることを望んでいた。そのため、必死に訓練を受けていたのだ。しかし、そんなミノリでも、今は自分の才能の無さに、心が折れてしまったのだ。
御月は、俯くミノリと視線を合わせるようにしゃがみ、ミノリに語りかける。
「御祈。もしもあなたが、本当に戦いたくないと思うなら、お姉ちゃんはそれでもいいと思っているの。だって、戦うのって危ないでしょ?」
「……うん」
「でも、御祈はさっき言ってくれたわよね? 『お姉ちゃんがもっとたくさん勝てるように、応援するね』って」
「えっ? ……うん」
「御祈に遠くから応援されるのも私はうれしい。でも、私は御祈と一緒に戦って、ずっと隣で、一番近くから、御祈に応援されたいと思っているの」
「でも、私は戦えないし……足手まといだし」
「御祈は足手まといなんかじゃないわ。だってお姉ちゃん最強だもの。それに、御祈がそばにいれば、お姉ちゃんはもっと最強になれるの。どんな敵が相手でも、絶対に御祈には傷ひとつ付けさせないわ!」
御月は得意げな笑顔で、ミノリに対してガッツポーズをしてみせた。
「うふふ、ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃんが守ってくれるなら、安心だね」
そう言うミノリの表情には、笑顔が戻っていた。ミノリはさらに言葉を続ける。
「それに、お姉ちゃんだって、昔から強かったわけじゃないもんね。きっと、いっぱい頑張ったんだよね。私も、また頑張ってみる!」
「御祈と一緒に戦えるのを、楽しみに待ってるわ」
「うん! でもそうかぁ……応援かぁ……それならできるかも!」
そう言って、ミノリは訓練場へと向かって行った。
「ちょっと待ってください!」
真一は叫んだ。
「何よ、今いい所だったのに」
御月は不満そうに口を
「いい所だったのにじゃないでしょ。さっきから見てれば総天祭で優勝しただの最初のS級だの、ただの自慢話じゃないですか! あなたが
「これは重要な場面なの! 後々に影響してくるの!」
「本当ですか?」
真一は目を細め、疑うように御月を見つめる。御月は、真一の疑いに対して反論するように
「だって見たでしょ? ちっちゃい御祈、落ち込んだ御祈、その後の笑顔の御祈。もう何であんなにかわいいのかしら! 食べちゃいたいくらいね! 昔の私はよく耐えたわね……」
「えぇ……」
御月の度を越したミノリへの愛情に、真一は顔を引き
「まぁ、ちょっとは私の趣味も入っていたけど、これは本当に重要な場面なの」
本当にちょっとか? と真一は思ったが、口には出さなかった。
「私は、急に強くなりすぎたのよ。そして調子に乗っていたのね」
御月の言葉に、真一はどきりとした。強くなって、調子に乗っていた。それは、今の真一にも当てはまることだったからだ。
御月は口調を落ち着かせ、真一に語りかける。
「
「えぇ」
「その時話を聞いていて、不思議には思わなかった? 何で勉強も運動もダメだった私が、急に
「それは……まぁ、思いましたけど」
「その疑問の答えを、見せてあげるわ」
場面は切り替わり、今から四年前の御月の記憶が映し出される。御月は当時十四歳。既に御月は大空から隊長の座を受け継ぎ、名実ともにSOLA最強の戦士となっていた。しかし、映し出された彼女の姿は、隊長として華々しく活躍する姿ではなかった。
御月は病室のベッドで苦しそうに横たわり、体には点滴の管が
「お姉ちゃん……大丈夫?」
そんなミノリに対して御月は、ベッドの隣に置いてあった時計を投げつける。時計はミノリの隣の壁に当たり、ガシャンと音を立て、バラバラに砕けてしまった。
「出て行って! あんたなんか、顔も見たくないわ!」
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