第94話 何それダッサ……
「ちょっと真一、何よその
そう言ったのは
「昨日の試合で、何かあったの?」
「……別に」
真一はゲーム画面を見たまま答える。
「負けちゃったの?」
「いや、試合には勝ったんだ」
「えっ? なんだ、よかったじゃない。家を出る前はあんなに負けを覚悟していたのに」
「あぁ……」
「でも、勝ったってことは、次も試合があるんじゃないの?」
「そうだな。でも、もういいんだ。」
「もういいって?」
「辞めるからな、僕は……」
「えっ……何それダッサ……」
真理奈は心底軽蔑したように、わざと言葉を強調してそう言った。
「はぁ⁉︎」
そのあからさまに自分を馬鹿にした言葉に、流石の真一も立ち上がり、真理奈の方を向く。
「だってそうでしょ? 試合前あなた何て言ったっけ? 確か、『男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある』だったわよね? そんな
「好き勝手言いやがって。理由を説明したところで、どうせ真理奈には分からないよ……」
「そうね、私にはあなたの気持ちは分からないわ」
「だったら……!」
「でも、あなたに負けた人の気持ちなら、多少は分かるつもりよ」
真理奈の言葉に、真一はハッとした。
「私、まだあなたに何一つ勝てていないから」
「……」
「あなたは私の目標。越えるべき壁よ。それはきっと、あなたに負けた人たちにとっても同じこと。その人たちだって、必死に練習してきたんでしょう? それでもあなたに負けて、さぞ悔しかったでしょうね。でも、だからこそ次はあなたに勝ちたいと思って、今まで以上に練習するはずよ。それこそ、死に物狂いでね」
真一は、先日の
「なのに、あなたに途中で辞められたら、あなたに負けた人はどう思う? 『自分はその程度の覚悟しか持たないやつに負けたのか?』って考えて、さぞ腹が立つでしょうね」
その程度の覚悟と言われたら、まさしくその通りだった。
「でも……!」
真一は反論しようとしたが、それを予想していたかのように真理奈は言葉を続ける。
「でもまぁ、あなたのことだもの。辞めようと思うのにも、何か事情があるんでしょうね」
真一の事情とは何だろうか。自分の中の罪悪感を記憶と一緒に消してしまいたいだけ。それは果たして正当な理由になるだろうか。自分に甘いだけではないだろうか。
「私は、あなたが負けた人の気持ちに気づいてなさそうだから言っただけ。その上で、それでも辞めるって言うんなら、勝手にしてよね。そんな
そう言って、真理奈は部屋を出て行った。
彼女が出て行った後の扉を見つめながら、真一は考えた。真理奈の言いたいことは理解できる。つまりは、今まで負けた人たちの分まで戦い抜けと、そう言いたいのだろう。確かにそんな考えは真一にはなかった。勝者には勝者の責任がある。それは真一が辞めたい理由よりも優先されるだろうか。真一にはもう分からなくなっていた。辞めても辞めなくても間違っている気がする。いっそ誰かに辞めないでとか、辞めろとか言ってもらえれば、その瞬間に決断できるのに。
ピコン
電子音と共に、真一の携帯端末にメッセージが届く。登録した覚えのない連絡先からだったが、真一はそのメッセージが誰から送られたものかはすぐに分かった。
『今日の十三時、私の病室に来て。あなたがいつも使っているゲートから
このようなことを連絡してくる人物は一人しかいない。SOLAの隊長、
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