第93話 真一、ありがとう

SOLAソラを……辞める? そんな、どうして?」

ミノリは真一に問いかけた。

「SOLAを辞めれば、記憶を消されるんだろ? そうすれば、僕が総天祭そうてんさいで勝って思い上がっていたことも、さっき鋼太こうたさんたちやミノリに対して抱いた感情も忘れることができる。そうすれば僕は、元の僕に戻れるんだ……」

「そんな……」

 重い沈黙が二人の間にのしかかる。

 もう何を言っても遅いのだ。真一はとんでもないことを言ってしまった。しかしその思いに偽りはなく、決意は固い。ミノリは返す言葉が浮かばなかった。真一の思いを痛い程に理解してしまっているからだ。 

「あの……」

そんな中、最初に口を開いたのはミノリだった。

「真一、ごめんね。あなたがSOLAに入ったのは、元はと言えば私のせいでもある。私が戦いに巻き込んで、私がSOLAに誘って、私が総天祭への参加を促した。……さっきも、基地ではひどいことを言ったし、ひどいことをした。だから、真一がSOLAを辞めたいと言うなら、私は止めることはできない……」

 違う……。

 真一は思った。

 僕は君に謝って欲しいんじゃない、責任を感じて欲しいんじゃない。君は悪くない。悪いのは僕で、君の言っていることは正しい。僕はわがままを言って、命を粗末に扱って、君はそれを正しくしかった。それで癇癪かんしゃくを起こす僕が悪いんだ。だから僕は辞める。みんなをこれ以上困らせないように。みんなにこれ以上ゆがんだ感情を抱かないように。

「でもね真一。私、真一にお礼が言いたいの」

ミノリは真一の予想外の言葉を口にした。

「真一は、そんなつらい中でも私を守ってくれた」

何のことだか分からない。自分はミノリを守れてなんかいない。

「ゲートを抜けてすぐ、真一は私を突き飛ばしたよね。あれ、飛んできた彩華さんに、私がぶつからないようにしてくれたんだよね」

あの時のことはよく覚えていない。自分はなぜミノリを突き飛ばしたのだろうか。

「それに悪鬼と戦っているときは、私を一番近くで守ってくれた。うれしかったな」

違う。何もやっていないのが嫌で、ただやれることを探していただけ。それに、結局何もできなかったじゃないか。

「だからね真一、ありがとう」

そう言って、ミノリは笑った。とても悲しそうに。それはまるで、別れのあいさつのようにも見えた。


「気のせいだよ、ミノリ。……僕はそんなにいいヤツじゃない」

真一はミノリに背を向け、ゲートへ向かって歩き出した。

「真一……」

ミノリは背後から真一に呼びかけた。

「SOLAを辞めるなら、あした、お姉ちゃんのところに行って。事情は私から説明しておくから……」

「あぁ……ありがとう。……さよなら」

真一はミノリに背を向けたままそう答え、ゲートの中へ消えていった。

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