第85話 終焉だ……

「来いよハエ野郎ヤロウ……ぶったってやる……!」

そう言って剣を向ける真一を見て、大智だいちはこの試合で初めて攻め込むことを躊躇ちゅうちょした。今飛び込めば、瞬時に全身を斬り刻まれてしまうと思ったからだ。しかしそれによって、大智はおくれを取ってしまった。

「なんだ来ないのか? なら、こっちから行くぞ!」

攻め込まない大智を見て、真一はこの試合で初めて先手を取った。

墜落ちろ!」

真一は剣を振り下ろす。すると、刀身から切り離された魔力が無数の刃となって大智を襲う。今までにない攻撃に意表を突かれたが、大智はその動体視力で全ての刃を避け切った。そうして安心したのもつか、刃によって切り裂かれた床を見て驚愕きょうがくした。石でできた床の断面は完全な平面。一切の引っ掛かりのない滑らかで均一な鏡面そのもの。それは真一の飛ばした魔力の刃の切れ味の鋭さを表していた。


 やばい……!

 危機感を覚えた大智は、全力で真一を倒しに行こうと決めた。真一が遠距離攻撃をできるのであれば、近づかなければ勝機がない。それにあの無数の刃。あれを続けられたら流石に避けきれない。


またたけ、遊浮王ユーフォー!」

大智は遊浮王の最高速で真一に向かって突進した。大智は当然、真一がそれを防ぐとばかり思っていたが、違った。真一の姿勢は防御の構えではなく、攻撃用のそれだった。相手の取る予想外の行動に、大智は恐怖する。それでも大智はためらわず、全ての武器で真一に向けて攻撃した。

「……⁉︎」

そう、大智は間違いなく攻撃したのだ。しかしどうだろう、まるで手応えがない。振り下ろした拳も剣もむちも、その全てが空を切り、まるで真一がかすみのように姿を消したとしか考えられなかった。

「意外と鈍重ノロいな、アンタ……」

その声は大智のすぐ後ろから聞こえてきた。驚いて振り返るよりも先に、大智は遊浮王を操作する。見なくとも分かる。真一は今、自分の真後ろに乗っている。このままではやられると判断した大智は高速移動をし、真一を振り落とそうと考えたのだ。大智の思惑通り、真一はスピードに揺られ、外に放り出される。

「逃がすわけないだろ……」

真一は空中で剣を水平に振り払い、大智を目掛けて魔力の刃を飛ばす。至近距離で放たれた高速の攻撃だったが、遊浮王のスピードはそれ以上。すんでのところで刃をかわし、大智は真一から距離を取った。ほっと一息ついた次の瞬間、大智はある違和感に気がついた。

トラえろ……如意鞭天ニョイベンテン……!」

遊浮王の周りを取り囲むようにして、鞭でできた網が張り巡る。先ほどの真一の攻撃の狙いは大智自身ではなく、如意鞭天を持った遊浮王の腕を狙っていたのだ。真一は遊浮王の腕を切り落とし、そこに握られていた如意鞭天を我が物とした。そして今、その鞭で遊浮王を捕らえた。

 鞭で機体をギチギチに縛られ、それにより生き残っていた腕の内の一本も動きを封じられた。大智に残るのは、堅牢剣を握った腕一本のみ。

「クッソー!」

大智は遊浮王を急発進させる。鞭を握った真一を振り回そうとするも、時すでに遅し。真一は手にした如意鞭天を縮めることで、遊浮王の操縦席に着地していた。大智は最後の抵抗とばかりに堅牢剣けんろうけんを真一に向ける。しかし、そんな分かりきった攻撃はすでに対策されていた。真一の放った魔力の刃により、多数の切れ目が入った遊浮王の腕は千切れ落ち、残った剣は真一の手に握られた。真一は左手で先ほど奪った剣を操縦席の床に向け、右手の自分の剣を自身の後方に向ける。

ハナて、堅牢剣ケンロウケン!」

真一は自身の剣からエネルギーを放ち、その力で遊浮王を地面へとたたき落とす。その衝撃で大智から奪った剣は操縦席の床を貫き、その先の地面へと深く突き刺さる。

「これでもう機動ウゴけないだろ……」

地にい付けられた遊浮王に、もはや機動力はない。腕もなく、武器もなく、大智はもう裸も同然だった。地を大智を、真一はただ冷たく見下し、堅牢剣の切先きっさきを大智の顔に向ける。

終焉オワリだ、死ね……!」

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