第82話 第二形態
痛い。苦しい。逃げたい。
心の底から
諦めて、立ち上がる気力も起きない真一。
あぁ。こんなふうに地面に寝そべったのなんていつぶりだろう。あれはそう、小学生の時のかけっこで転んでしまったとき……。
昔の記憶に思いを
なぜ自分は地面にまだ横たわっているんだ。おかしいじゃないか。これは総天祭、シミュレーターの中で行われる大会だ。戦闘不能になるほどのダメージを受けたら自分はシミュレーターの外に強制排出されるはず。それなのに、自分はまだここにいる。ここにいるんだ。つまり……自分はまだ、戦えるとでも言うのか。
なんて残酷なんだろう。
衆人環視の中、年下相手にいいようにやられて、観客は
あぁ、誰か。僕の大切な誰か。お願いだから僕を応援してくれ。純粋な実力勝負では大智に勝てない。立ち上がることさえ難しい。誰か僕に、立ち向かう勇気をくれ!
『あなたのことを信じてるから』
真一の脳裏に浮かぶ誰かの言葉。
僕を信じる? どうして? なんで? 僕の何を信じているんだ?
『別に。ただ、私の目標であるあなたがそう簡単に負けてほしくないだけ』
目標? 僕が? 誰かの目標?
『あなたなら勝てるわ』
……あぁ、思い出した。僕を信じてくれる人。僕を応援してくれる大切な人。こんな僕を強いと思ってくれる人。
「
真一にとってたった一人の妹。孤独な真一にとって唯一と言っていい、切っても切れない
「だったら……こんなところで無様に倒れているわけにはいかないよな……!」
真一は痛む体に
しかし、これは試合中。相手は真一が立ち上がるのを待ちはしない。
大智はいまだ体勢の整わない真一目掛けて追撃の右ストレートを放つ。
真一は
真一の体は
「放て! 堅牢剣!」
どうだ!
手応えはあった。確かに攻撃は命中した。あの攻撃を受けては、流石のS級隊員もただでは済まないだろう。
「っあっぶねー! びっくりしたぁ……!」
大智のその声を聞いて、真一は
「まさか倒れてる状態で攻撃を誘って、そこからカウンターを狙うなんてなぁ。
バカな。そんなバカな。ありえない。あの状況、あのスピードの中、反応できるわけがない。そんなことできるわけがない。
『
『あぁ。大智が強いのは、遊浮王が強いからじゃねぇ。あの遊浮王を使いこなせるから、大智は強いんだ』
『超スピードの中でも敵を見失わず、そのマジックアームで千の弾丸さえ防ぎ切る『
『俺から言わせればそれだけじゃねぇが……まぁ、そっちも十分に脅威だな』
『さぁ、逆転の一手を防がれた真一くん。これからどんな戦いを見せてくれるのか注目です!』
「……確かに攻撃は防がれた。だけど!」
真一は精一杯に声を張り上げ、自分を
「これでもう遊浮王の片腕は使えないはずだ!」
真一の言う通り、遊浮王の左手は指の関節が
「いくらお前が速かろうと、右腕一本だけなら、僕は防げる!」
そうだ。片腕の攻撃なら最初から防げた。確かに先ほどのカウンターは決まらなかったが、着実に大智を追い詰めている。まだ負けていない。まだ勝機はある。
「うーん。ほんとだ、もう動かないや……」
大智は操縦席でレバーを操作するが、左腕はぴくりともしない。
「流石だね、真一にいちゃん」
大智は笑った。余裕そうに。楽しそうに。
「そう来なくっちゃ! でないと、わざわざ真一にいちゃん用に遊浮王をチューニングした
その瞬間、遊浮王に起こった変化を見て、真一は確信した。今までのは全て遊びだった。片腕を潰されたことなど、大智にとっては痛くも
「右腕
遊浮王から伸びてきたのは新たな両腕。そしてその先には彩華の使った如意鞭天と、鋼太の使った堅牢剣が握られていた。
「行くぞー! これが対真一にいちゃん用の、オレの
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