第81話 速く、強く、巧く、狡猾

 戦闘開始の宣言直後、真一と大智だいちは同時に姿を消した。

 会場にいた多くの人が、それをシミュレーターや立体映像の故障かと疑った。

 しかし、次の瞬間に衝突音が響き、地面はひび割れ、砂埃すなぼこりが舞った。機材の故障などではない、真一と大智は戦闘開始と同時に高速移動し、衝突したのだ。

スピードは互角。しかし、弾かれたのは真一の方だった。

「ぐわぁぁ!」


『おおっと! 真一が吹き飛ばされた!』

鉄也てつやによる実況が入る。すかさず晶子あきこもそれに続く。

『これは、一回戦の鋼太こうたさんとの試合と同じですね。大智くんは心機しんき遊浮王ユーフォーに乗っている分、真一くんよりも重量があり、当然力も強く、リーチも長いです』

『スピードの最高速度がほぼ互角なら、純粋な力の差が勝敗を分ける。これで勝負は決まったか⁉︎』


「まだ……負けるかぁ!」

吹き飛ばされた真一は、剣を地面に突き刺した。それにより、衝撃を剣に吸収し、地面へ身を打つことを防いだ。しかし、それでもダメージは残る。もしもまともに受けていたら、全身の骨が砕けていただろう。真一は痛みをこらえながら体勢を整え、大智からの追撃に備える。予想通り、大智は突進しながらマジックアームを大きく振りかぶり、渾身こんしんの右ストレートを放った。真一はそれを真正面から受け止める。とてつもなく重い衝撃が真一の両腕から両足まで駆け抜ける。スピードだけでなく、パワーも鋼太や彩華あやかに引けを取らない。しかし、真一もただやられてばかりではない。大智の攻撃を見極めた真一は、地面を踏み締め、大智の攻撃を防ぎ切った。


『一度は突き飛ばされた攻撃を、今度は止めたぁ!』

『遊浮王のスピードと機体の重量が乗った攻撃は、相当な威力のはずです。それを止め切った真一くんの防御力は、今やSOLAソラきってのものと言えるでしょう』

『最強のS級相手にらいつくC級! これから先も目が離せないぞ!』


 いける。

 受け方次第では大智の攻撃は防げる。スピードはとんでもないが、見極められない程ではない。そしてパワーが強い分、剣に蓄えられるエネルギーも大きい。後は何とかして一撃を入れられれば、勝機はある。

 そう思った、次の瞬間……。


ドゴッ!


 鈍い音と共に、真一は横に吹き飛んだ。脳が揺れ、骨がきしむ。地面に数回バウンドし、受け身も取れずに倒れ伏す。混濁こんだくする意識の中、遅れて全身に激痛が走る。

 何が起こったのかを理解するには、それほど時間を要さなかった。かすむ視界の中、大智の方を見ると、そこには、先ほど真一が防いだ腕とは逆の腕、左腕を振り抜いた遊浮王の姿があった。

 真一とて、忘れていたわけではない。右腕の攻撃を防いだところで、次は左腕の攻撃が来る。そんな当たり前のことを警戒していなかったわけではないのだ。攻撃が来ると分かっていたなら、防御する方法も考えていた。しかし、大智の動きからは全く次の動きを感じられなかった。

 ……違う、真一には、大智の動きを見ることができなかったのだ。

大智は計算していた。一撃目の右ストレート。それを防がれることを大智は分かっていた。一撃目はおとり。真一の動きを封じ、視界を塞ぐための揺動ようどう。本命は二撃目の左フック。後ろから腕を大きく回し、遠心力を乗せた必殺の一撃。

 相手の動きを読み、動きを限定させ、思い通りに動かし、そして決める。

 速く、強く、うまく、狡猾こうかつ

 これがS級隊員、風間かざま大智だいちの強さだった。

「よっしゃー! やりー! オレの勝ちだね。真一にいちゃん」

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