第80話 総天祭準決勝

 晴れ渡る空、会場を埋め尽くす満員の観客たち。その立ち込める熱気を、鉄也てつや晶子あきこによる実況は更に盛り上げる。

総天祭そうてんさいもついに準決勝じゅんけっしょう! この試合に勝った隊員が決勝進出だ!』

『予選では百二十人ほど参加していた隊員も、もう四人にまで減ってしまいました』

『そして今日行われるのは、その中でも注目の一戦だ! みんな、目をらさずにちゃんと見とけ!』

『それでは、選手の二人に入場してもらいましょう!』

『最初に入場するのはこの人! SOLAソラの中でも年少組の十二歳。しかしその階級は最強のS級。スピード最速の心機しんきを操る電光石火でんこうせっかの光速少年。風間かざま大智だいち!』


 鉄也の紹介と共に会場からは煙が立ち上り、その中から高速で何かが飛び出した。

 煙をはらんだそれは観客席スレスレの高さを猛スピードで飛行し、そのまま会場をぐるりと一周したのちに中央に移動、そこで高速回転をして煙を振り払い、遊浮王ユーフォーに乗った大智が姿を現す。

「どーもー! みんな今日もバシバシ行くから、応援よろしくー!」

大智は遊浮王から伸びた二本のマジックアームをまるでガッツポーズをするように掲げる。それと共に、観客席からは応援の声が上がる。

「きゃー! 大智くーん、頑張ってー!」

「今日はどんなとんでもギミックを見せてくれるんだー!」

「やっちまえー! 大智!」

大智はその歓声に対して、笑顔と共に手を振って応える。


『お次はこの人です。格上相手にもおくすことなく戦い。数々の下剋上げこくじょうを成し遂げてきたC級代表! 星野ほしの真一しんいち!』

晶子の紹介が終わり、真一は煙と共に会場に姿を現す。

 大智のように派手なパフォーマンスはしない。ただゆっくりと歩み出て、右手の拳を突き上げる。

「真一! 真一!」

「ファイトー! 頑張ってくれよー!」

「優勝まであと少しだー! 勝ってくれー! 真一!」


 自分を応援してくれる人がいることが、真一にはとてもありがたく思えた。一度逃げ出そうとも考えた自分を、みんなは応援してくれるのだ。応援してくれるみんなのためにも、真一はこの戦いから逃げるわけにはいかない。


『両者、舞台中央へ』

晶子の指示の元、二人は向かい合う。

「やっほー、真一にいちゃん。すごいねここまで勝ち上がるなんて、でも、今回は俺が勝たせてもらうからねー。決勝に進むのはこのオレだぁ!」

大智は自信満々に真一を挑発ちょうはつする。とは言え、この自信は本物。圧倒的な実力に裏付けられた強固なものだ。

「負けるつもりはない。あんたに勝って、決勝に進むのはこの僕だ!」

はったりだった。そんな自信、本当はない。強気な言葉にのみ支えられた、ハリボテの自信。大智のそれとは比べるまでもない。あのスピード、あのパワーにどこまで太刀打ちできるのかは分からない。それでも、自分の全神経を集中させ、なんとか対応していくしかない。

 

 真一は大智の顔へ目を向ける。

 幼い。十一歳になる妹と比べても、なお幼く見える。こんな相手に恐怖して、負けるかもしれないと思っている自分に対して、苛立いらだつ気持ちはある。

 負けたくない。やっぱり僕は、負けたくない。


「素直になればいいのサ」

七志ナナシの言葉が頭をよぎる。そして、心の中に何か重くよどんだドス黒い感情が渦巻くのを感じた。


 頭を振り、雑念を払い、目を閉じて、深呼吸をする。鼻から息を吸い、肺を満たしていくのを感じ、自然と息が止まったあと口から息を吐く。そして目を開き、大智を見る。

「……」

気持ちは落ち着いた。大智は倒すべき相手だが、憎むべき敵ではない。敵は七志であり、悪鬼だ。ミノリの村を襲い家族を殺し、ミノリを苦しめ、悲しませた悪鬼こそが、自分が戦うべき本当の敵。そしてその悪鬼と戦うためには、こんなところで逃げ出したり、負けたりするわけにはいかないのだ。

「僕は、あんたに勝つ!」

真一は再び宣言する。自信が本物かハリボテかなどどうでもいい。ハリボテならば、ここで勝って、本物に変えてやる。

 にらみつける真一に、余裕の笑顔の大智。二人の思考はすでに戦闘モードへと切り替わっていた。そのことを実況席から確かめた鉄也と晶子は、二人で息をそろえて、戦闘開始の宣言をする。

『『総天祭準決勝、始め!』』

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