第72話 二回戦第一試合

 総天祭そうてんさい会場には大勢の観客が駆けつけ、一回戦のとき以上の熱気に包まれている。それもそのはず。今日の対戦はある理由でとても注目されていたのだ。会場の観客たちも、その話題でもちきりだ。

「ねえねえ、今日の対戦すごくない?」

「うん! 多分今大会で一番美しい隊員同士の対決になるわ」

「もう、面食めんくいなんだから」

「あなたもでしょ?」

「まあね」

「あっ、そろそろ始まるよ。ほら」

設置された巨大なスクリーンに鉄也てつや晶子あきこの姿が映され、二人の実況が始まる。

『今日から総天祭も二回戦。一回戦も激戦だったが、二回戦はさらに素晴らしい戦いになるに違いない!』

『今日も隊員たちの熱い戦いに期待大です。それでは、選手たちに入場してもらいましょう』

『まず入場するのはこの人! 今大会唯一のC級隊員にして、一回戦では格上のA級隊員をもくだした期待の新人! 顔もいいが頭も切れる、スーパールーキー星野ほしの真一しんいち!』

鉄也の声と共に煙が立ち上がり、真一はその中からゆっくりと姿を現す。すると、会場中から声が上がる。


「キャー! 真一くーん! こっち向いてー」

「あっ、手振ってくれた! かわいい!」

「あら本当にイケメンじゃない……応援してるわ!」

湧き上がる女性たちの黄色い歓声に、真一は赤面し、顔が引きつる。

『実況席のここから見ても分かるほどの大人気だいにんきだ。うらやましいぜ!』

『真一くんはとても高い女性人気があります。それに、C級隊員たちの期待の星でもあるので、頑張っていただきたいです。さて、次に入場するのはこの方です。こちらも今大会唯一という点では真一くんと同じ。出場した隊員の中では唯一の女性。その姿からは想像できないパワフルな戦闘が魅力的。B級代表、木村きむら彩華あやかさん!』

晶子の声と共に煙が立ち上がり、その中から彩華が現れる。

「どーもどーも! みんな応援よろしくねー!」

彩華は観客に手をりながら、笑顔で現れた。その姿がスクリーンにも映し出されていることを知った彩華は嬉々ききとしてカメラを探し、見つけてすぐにカメラ目線で投げキッスをした。


「いやーん! 彩華さんステキ」

「いつもの豪快な戦いを期待してる!」

「カッコいい! 彩華さーん! ファイトォ!」

こちらも真一に負けず劣らずの歓声が上がり、それに応えるように彩華は観客たちに笑顔をく。

『こっちもスゲー人気だな……っていうか、なんか今日の会場の雰囲気ちょっと変じゃないか? アイドルのライブ会場みたいに名前の書いたうちわを持ってる人がいるぞ?』

『そりゃそうですよ。今回の対戦は『美の頂上決戦』なんて呼ばれていましたからね』

『何だって? おい誰だよそんなことを言い出したヤツは? ……まあ、気持ちは分かるが。それにしても女性の声しか聞こえないのは何でだ? 男はいねぇのか?』

『今回のチケットの売り上げを分析してみた所、客層は女性が九割を占めています。つまり、男性隊員はほとんどいないのでは?』

『そんなことねぇだろ、彩華にはきっと男性ファンも多いだろ?』

鉄也のいう通り、彩華は男性受けしそうな姿をしていた。整った顔立ち、恵まれたスタイル。それだけでも多くの男性をとりこにしてもおかしくない。さらに、彼女はほとんど下着のような服しか着ていないため、露出はとても多い。

『彼女のファンはほぼ女性です。男性のファンもいますが……まあ、あんなものを見せられたら、身を引く気持ちも分かりますね』

『あんなもの?』

彩華は相変わらず観客全員に笑顔を向けているが、時折キョロキョロと何かを探しているような仕草をした。そしてついに見つけたのか、あふれんばかりの笑顔をはじけさせ、観客席へ向かって思いっきり手をり、大声で呼びかける。

鋼太こうたぁ! 見ててねぇ! 私絶対勝つからぁ! 応援よろしくねぇ!」

客席にいる鋼太は無言で微笑ほほえみ、軽くうなずく。彩華から見れば観客席の鋼太など点に等しい大きさでしかないが、彼女は鋼太のその様子を感じ取ったのか、さらに元気に飛び跳ねる。

「よーし、元気百倍パワー満タン! 私は! 勝つ!」


『なるほど……確かにあれを見せられたら、どんな美人でも推す男は減るかもしれないな』

実況席にいる鉄也の表情はあきれたように引きつっている。

『ふふっ。そんなところも彼女の魅力かもしれませんね。さあ、そろそろ試合を始めますよ。両者舞台の中央へ!』


 晶子の指示を受け、真一と彩華は向き合った。

「今日はよろしくねしんちゃん。いい試合にしよう。でも、勝つのは私だよ。鋼太のかたきはたせてもらうからね」

「言ってくれるじゃないですか彩華さん。試合前に惚気のろけるその余裕、一瞬でへし折ってやりますよ!」

「あははっ! 惚気かぁ、よく言われる。イヤな人はイヤかもね……でもこれが私なの。やめる気はないよ!」

にらみ合った二人の隊員は、気づけばどちらも武器を構えていた。真一も彩華も、そして会場の観客も、試合開始が待ち切れないといった様子だ。それを感じ取った鉄也と晶子は、二人同時に試合開始の合図を出す。


『『それでは、二回戦第一試合……始め!』』

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