第68話 無限ループ

 上空からもうスピードで突進してくる鋼太こうたの姿を、真一は薄く開いた目で見ていた。腕はもう、剣を握るのがやっと。足は動かず、全身の関節という関節が悲鳴を上げている。あの攻撃をくらったら敗北は確実だ。

 しかし、真一は集中していた。鋼太の姿勢、飛び込みの角度、これまでの戦闘での癖から、どこにどんな攻撃を仕掛けてくるのかを的確に予想し、その対策を練っていたのだ。

 勝負は一瞬。鋼太の剣が真一に振り下ろされたその瞬間に決まる。


 ガキィィィィ! 


 響くのは金属音。地面を砕く破壊音でも、真一を叩き潰す鈍い音でもない。真一は最後の力をしぼり、堅牢剣けんろうけんの先端で鋼太の攻撃を受け止めたのだ。恐ろしく正確で、冷静な判断。受け止める点がほんのわずかでもずれていたら、今の攻撃で真一は倒されていた。

 鋼太は驚いた。それは、真一が攻撃を防いだからではない。真一が何かしらの防御をすることは予想していた。彼が真に驚いたのは、自身の全力の攻撃を受けても、真一が剣を手放さずにいたからだ。

「僕はもう剣を支える必要はないんだ……!」

見ると、真一の堅牢剣のつかが深く地面に刺さっているではないか。真一が地面に立てた剣に鋼太の攻撃が加わり、まるで金づちで釘を打つように剣が地面に突き刺さり、固定されたのだ。真一は剣の刀身部分をわずかに握っているに過ぎない。

「お前、そのためにわざと地面に⁉︎」

「あぁ。これが僕が勝つための最後の戦略だ! これでもう、体重や筋力の差は関係ない。」

「くっ……!」

「行くぞ!」

「「放て、堅牢剣!!」」

二人は同時に力を解放し、光の剣をぶつけ合った。


『これは……一体何が起こっているのでしょうか?』

晶子あきこは疑問の声を上げる。

『光の剣が、どんどん大きくなっています。前回とは様子が異なるように見えますが?』

それに対して、鉄也による心機しんきの解説が入る。

『あぁ、恐ろしいことにコイツら、エネルギーを放ったそばから吸収していやがる』

『どう言うことですか?』

『堅牢剣の性質は知っているだろう? 一つは防御の時にエネルギーを蓄えること、そしてもう一つは攻撃時にそのエネルギーに魔力を乗せて放出すること。あいつらは、その二つを同時にやっているんだ。鋼太が放ったエネルギーを真一が吸収し、放出する。それを鋼太がまた吸収し、また放出する……』

『その無限ループで、どんどんエネルギーが巨大化していると?』

『その通り。だが……』


「これは無限ループじゃない」

真一は目を見開いた。

「このエネルギーが増加し続けるループの中、唯一減り続けるものがある。それは……!」

「くぅっ……!」

「確かに僕は身長も体重も筋力も、何もかもがあんたに及ばない。僕に唯一勝てる要素があるとしたら、のみ!」

真一の魔力量はSOLAソラの歴代の隊員の中でも第二位。現在の隊長である御月みつきに次ぐ圧倒的な量だ。

「さぁ、お互いの魔力がれるまで力をぶつけ合おうじゃねぇかぁ!」


 鋼太はもう、この勝負から逃げることはできなかった。力を少しでも緩めれば、真一の放つエネルギーに負けてしまい、剣の位置を少しでもずらしたら、攻撃をくらってしまうからだ。鋼太が真一の攻撃を防ぐためには、真一の攻撃に負けないエネルギーを常に放ち続け、相殺そうさいし続ける必要があったのだ。しかし真一の言う通り、これは魔力量の勝負。鋼太には不利だ。

「……なるほど。追い詰められたフリをして、まんまと詰みの状況に俺を誘い込んだと言うことか」

鋼太の放つ光がわずかに弱まった。その瞬間を真一は見逃さない。堅牢剣にありったけの魔力を込め、光の剣を鋼太にぶつける。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 真一の放つ光は、鋼太の光を打ち消した。衝撃波と共に光は空高くへとまっすぐに伸びていき、鋼太はその光の中に消えていった。その瞬間の彼の顔は、微笑ほほえんでいるようにも見えた。

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