第67話 互角の二人だからこそ

「行くぞ!」

真一は地面に刺した剣の力を解放し、突進攻撃を行う。

「攻撃のカラクリを瞬時に見抜くとは、流石だな。だが」

鋼太こうたは真一の攻撃を完全に見極め、正面から受け止めた。

「そんな直線的な攻撃、簡単に防げる」

どっしりと構え、真一の渾身こんしんの一撃を受けても微動びどうだにしない。

「まだだ!」

真一は鋼太の剣を振り払い。再び攻撃を入れる。しかし、鋼太はそれを受け流し、カウンターを入れる。二人の技量は全くの互角、一歩も譲らぬ攻防に、会場の熱気はどんどん高まっていく。

『すごい! 堅牢剣けんろうけん同士の激しい打ち合い、同じ武器を使うからこそ知り尽くしたお互いの戦術、それをギリギリのラインで斬り結ぶ! 真一はパワーでは鋼太に劣るが、その小回りを生かした攻撃で鋼太を翻弄ほんろうし、鋼太はスピードでは真一に劣るが、相手の次の一手を正確に見極め安定感のある攻守一体の型で真一にプレッシャーを与える!』

『それに、堅牢剣の性質上、打ち合いが長引くほど剣に蓄えられるエネルギーは膨大になります。よって、先に少しでもすきを見せた方が強烈な一撃をくらってしまう可能性があります』

『一瞬たりとも目が離せない激戦だ! みんな、瞬き厳禁で二人の戦いを見届けろ!』


 鉄也てつや晶子あきこの実況の通り、既に真一の堅牢剣にはかなりのエネルギーがまっていた。それは鋼太にも同じこと。相手を一撃で倒すには十分すぎるほどのその力は、緊張とそれにも勝る興奮を与える。そう、真一は戦いを楽しんでいたのだ。今まで、真一が自分の全力をぶつけられる相手は何人もいなかった。その中でも、この一戦は間違いなく過去最高のものだった。同じ武器、同じ戦術で、これほどまで自分の上をいく相手と戦えることに喜びを感じずにはいられない。やはり鋼太は強い。確実に決まったと思う攻撃を何度も防がれ、的確に反撃をしてくる。そして、その度に自分が信じられないほど適切で迅速じんそくな対応をしていることに驚いた。これが最高の集中状態、俗に言うゾーンに入った状態だろうか。ずっとこうして戦っていたい、しかし、絶対に負けるわけにはいかない。

 二人の剣が激しくぶつかり合い、その反動で互いに弾かれ、二人の間にわずかな空間が生まれた。一歩踏み込んでも剣は届かない距離、しかし、堅牢剣の光の刃をたたむには十分な距離だ。その隙を、二人は見逃さなかった。


「「放て、堅牢剣!!」」


 二人は同時に力を解き放ち、蓄えたエネルギー同士をぶつけ合う。その衝撃は地面を大きくえぐり、巨大な瓦礫がれきを吹き飛ばし、目を覆うほどの閃光を発する。

 やがて光は収まり、会場は舞い上がる土煙つちけむりと共に静かな緊張に包まれる。果たして激しい攻防を制したのは、真一か、鋼太か。皆がかたずを飲んで見守る中、ゆっくりと土煙は晴れていく。そして現れた光景に、会場中が歓声かんせいを上げる。真一も鋼太も、剣を振り下ろした体勢のまま、その場に立っていたのだ。


『なんと! 両者健在! 試合続行だ!』

『確実にどちらかが倒されたかと思いましたが、一体何があったのでしょうか?』

『堅牢剣のエネルギー同士で、攻撃の相殺そうさいが起こったんだ。だからお互いに大したダメージはない。だが、どちらかの力がわずかでも劣っていたら、さっきの攻撃で勝負はついていた。まさに奇跡、互角の二人だからこそ見られた現象だ』

『なるほど。……ですが』

晶子は少し悲しそうに目を伏せた。


『決着の時は、近いかもしれませんね』


 真一は突然がくりと地面に膝を着いた。剣を杖に何とか倒れずに体を支ええているが、その姿に先ほどまでの活力を感じない。

『確かに、二人の力は互角でした。ですが、互角だからこそ単純で純粋な力の差がはっきりと現れました。鋼太さんは、真一くんより身長も体重も筋力も上です。同じだけのエネルギーをぶつけ合った場合、消耗しょうもうが激しいのは当然真一くんとなります』

晶子の言う通りだった。真一は明らかに鋼太よりも疲労していた。もう、立っていることさえままならない。それに対して鋼太は、多少息が上がっている程度で大した疲労は見られず、巨大な剣をまっすぐに構え、まだまだ戦えるといった様子だった。

「いい戦いだったが、そろそろ幕引きだ、真一」

迫り来る鋼太に、真一は力無く剣を構えた。しかし、そんな状態で鋼太の攻撃を防ぎ切れるはずもなく、真一は上空へと弾き飛ばされてしまう。それでも、堅牢剣を握るその右手だけは決して離さなかった。

「最後まで剣を手放さないか。だがもうお前に、その剣を振るうだけの力は残されてはいない!」

鋼太は真一を追って飛び上がり、追撃を加えて地面にたたきつける。もはや真一の体はボロボロ。大の字に地面に倒れ、薄く開いた目でかろうじて鋼太の姿をとらえているのみだった。鋼太はとどめの一撃とばかりに、魔力を込めた最後の突進攻撃を行う。

「終わりだ!」

魔力を解き放った鋼太は、上空から真一に向かってとてつもない速さで向かって行った。

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