総天祭本戦

第62話 総天祭本戦当日の朝

 総天祭そうてんさい本戦当日の朝。真一は予選の時以上に入念に準備を整えた。前日は八時間の睡眠をし、ほどよい量の朝食をとり、ストレッチをした後に朝日を浴びながら軽く散歩をし、瞑想めいそうして集中力を高めた。

「あなた、朝っぱらから気合い入れすぎじゃない?」

妹の真理奈まりなにはそんなことを言われた。確かにそんな気がするとも思ったが、準備のしすぎで何か問題が起こるわけでもないため、あまり気にしない。

「気合い入れすぎと言えば、その格好どうしたんだ?」

真一は真理奈に向かって問いかける。彼女はいつも、この時間は寝巻きのままなことが多い。しかし、今は着替えを完璧に済ませており、その格好もオシャレをしているように見える。パステルカラーのゆったりとした半袖のトップスに、丈の短いショートデニム、髪はポニーテールにまとめられ、明らかに気合いが入っている。それはファッションにうとい真一にも理解できた。

「今日も友達と一緒に勉強するの。だから、もうすぐ出なきゃ行けないの」

「ふーん……」

(その友達って、まさか彼氏じゃないだろうな?)

一瞬そんな考えがよぎったが、言うのはやめた。妹が誰と付き合おうと自分には関係ない。


「それじゃ、行ってきます」

真一はそう言って、玄関の扉を開ける。すると、目の前に一人の少年が立っていた。

「うわっ!」

「おっと!」

真一と少年は、お互いに驚いて一歩後ろに下がった。そこにいたのは真理奈よりも少し年下くらいの黒髪の少年で、何やら重そうなかばんを背負っていた。

「君……もしかして、真理奈に用がある?」

「あ、はい。今日は一緒に勉強する約束をしていて……」

(何だ、友達ってやっぱり男じゃないか……)

「え、えーっと……」

少年は何か困っているようだった。それもそうだ。友達に会いに来た所に、その家族と会ってしまったのだ。気まずくもなる。

「僕は真理奈の兄の真一。ちょっと待ってね、すぐに真理奈を呼んでくるから」

真一は再び家の中に入り、真理奈に呼びかける。

「真理奈―。友達が来てるよー!」

「えっ、もう来てるの? 早いのよ……分かったわ、今行く」

真一はその返事を聞くと、もう一度外に出た。

「あとちょっとで真理奈は準備できるって」

「はい。ありがとうございます」

少年は礼儀正しくお辞儀をして、真一の言葉に応えた。

「それにしても……」

真一はその少年の姿をよく見た。

「君、どっかで会ったことある?」

その少年の顔立ちに見覚えがあったのだ。顔は割と整ってはいるが、これと言った特徴はなく、どこにでもいるような普通の少年。

「えっ? どうでしょう? 近所に住んでいるので、会ったことはあるかもしれないですけど……」

少年は慣れない敬語で話す。どうやら真一に会ったことはないらしい。見覚えがあるのも、おそらく真一の勘違いだろう。

「そうか。ごめんね。気のせいならいいんだ」


 そうこうしているうちに、真理奈が支度したくを終え、外に出てきた。

「ごめん透弥とうや。待った?」

透弥。それがこの少年の名前か。

「ううん、お兄さんと話してたらすぐだった」

「って言うかねぇ、あなた来るの早すぎるのよ」

「ごめんって。時間になるまで外で待ってようと思ったら、お兄さんが出てきたから……」

「なるほど、そういうことね。じゃぁ、行きましょうか」

そう言って、二人は並んで歩き出した。


「俺、最近また変な夢を見るんだよねー」

「変なって、また真っ白なお化けの夢?」

「うん。それに黒いお化けもたくさん出てきて……」

「あなたもう四年生でしょ? まだお化けが怖いの?」

「違うって!」

「本当にぃ?」

そんな話をしながらも、二人が笑い合いながら歩いていく姿を真一は見ていた。真理奈は自然と誰かと仲良くなれる。それが少しうらやましかった。


「それにしても、あの透弥って子の顔、どこかで見た気がするんだけどなぁ……?」

しかし、どれだけ記憶をさかのぼっても、彼に会ったことはなければ、会うような機会もなかった。

「まぁ、誰かに似てるとか、そんなもんだよな」

真一はそう自分を納得させ、SOLAへと通じる神社の鳥居とりいへと向かった。

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