第60話 初めてできた戦う理由
「これが、私の知っているあの少年……あなたたちが『
夕日が差し込む病室の中、
(何だこの女が話していることは? 八歳のときに大量の
真一はそんな思いで御月を
(まずは分かったことを整理しよう。はじめに『七志が悪鬼を生み出していたこと』が分かった。それに、『悪鬼を自由に操る力もある』ようだ。これで
次に、『七志が誰かを探しているということ』も分かった。それは心の強い誰かで『悪鬼はその人を探すためのもの』だと推測される。総天祭予選でも同じようなことを言っていた。そして『その誰かが僕のそばにいる』とも言っていたな。……だが、現状ではそれ以上の情報はない。
そして『七志は
情報を整理した真一は、更に考え込んだ。
(でも、結局分からないことばかりじゃないか。七志の顔を見たからあいつの記憶が残ることは推測できたが、その理由も分からない。それに、あいつが結局何者で、誰を何のために探しているのかも分からない。……でも)
真一は再び視線を御月とミノリの方へと向ける。ミノリは無言のまま震えた手で御月の手を握り締め、御月はそんなミノリを少し悲しそうな笑顔で見つめている。
(この二人にも家族がいて、七志にその家族を奪われて、幼い姉妹だけが残された。隊長の武勇伝がどこまで本物かは分からないが、少なくとも家族を守りたくて戦ったことは本当なのだろう。そして、この二人のように家族や大切な人を殺された人たちがきっと、他にもたくさんいる。
そう考えると、真一は居ても立っても居られなくなった。
「なぁ隊長。もう総天祭なんてやってる場合じゃない! 七志が全ての元凶なら、あいつがまた攻めて来た今、『
真一は真剣な表情で御月に訴えかける。
「でも、C級の僕じゃまだ正式な作戦に参加できない。だから隊長、あんたの力で僕をB級に昇格させてくれないか? 予選での戦いは見ていただろ? 戦力的には問題ないはずだ。それ以外にもやるべきことがあるなら何でもやる。僕は絶対に七志を倒したいんだ!」
急に大きな声を出した真一の声を聞いて、ミノリと御月は目を大きくさせた。
「ごめんなさい、真一くん」
先に口を開いたのは御月だった。
「私は確かに隊長だけど、隊員の昇格に関しては私個人が勝手に決めることはできないの」
「あんた隊長なんだろ? 何とかならないのか?」
「提案することはできるわ。でも、認定させるためにはそれなりの理由と、『
「
だから僕を昇格させてくれ。そう言いかけて、真一はあることに気がついた。
「あの二人は、七志のことを覚えていない……!」
「そう。だから、今の状態で二人を説得することはできないわ」
「そんな……!」
真一は歯を食いしばり、悔しそうに
「その様子を見ると、あなたはあのことを知らないみたいね」
御月は
「ごめんね、真一。本当だったら私が総天祭に誘った時点で言うべきだったんだけど、真一ったらすぐに受付に行っちゃうんだもん」
「……何の話だ?」
混乱する真一に、ミノリは優しい声で説明する。
「総天祭に参加した人には、その成績によって特別昇進が与えられるんだよ」
真一は息を呑み、目を見開いた。
「そ、それじゃぁ。僕が総天祭を勝ち進めば、B級に昇格できるかもしれないのか?」
「うん。簡単にはいかないけどね。でも、もしも優勝できれば……」
「僕は昇格して、B級になれる……!」
そう言うと、真一は急いで病室の出口へと向かって行った。
「ちょっと真一! どこ行くの?」
「こうしちゃいられない。絶対に優勝できるように、今よりももっと強くならなきゃいけないんだ。だから特訓してくる」
「うふふ。気が早いのね」
そんな真一の様子を見て、御月は静かに笑う。
「優勝するにしても、闇雲に特訓しちゃダメよ。最初の対戦相手くらい知っていないと。ほら、もうそろそろ本戦についての発表があるはずよ」
御月はそう言って、テレビを点けた。
壁に備え付けられた大きなテレビには、鉄也と晶子の二人が映されていた。
『ようみんな。数々のトラブルに見舞われた総天祭だが、やっと復旧のめどが立ったぞ』
『本戦開催は三日後。予選と同じスタジアムで行われます』
『そして、注目の一回戦第一試合を戦うのは、この二人だ!』
鉄也の掛け声と共に、本戦参加者の名前が書かれたスロットが回転を始めた。
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