第58話 防御は気にしなくていい、全力で行け

「口を開けば家族家族っテ。キミたちにとってソレってそんなに大切なものなのカイ?」

「当たり前よ!」

少年の不機嫌そうな問いかけに、御月みつきは即座に断言した。

「生まれてからずっとそばにいて私の生活を支え続けた家族は、もう人生の一部。なのにあなたは、私からお父さんもお母さんも奪った。だから、残された御祈ミノリだけは、絶対に守り抜いてみせる」

「その通りだ」

大空おおぞらは御月の前に立ち、少年に向けて宣言する。

「家族とは最も身近な他者。その愛を、家族とのきずなを壊したお前を、私は許さない。家族のいないお前には一生分からないだろうがな」


二人の言葉を聞いて、少年は心底悲しそうな顔をした。

「二人揃って家族は大切っテ……ソレ、家族から大切にされたことのあるヤツの言葉じゃないカ? 考えたことはないのカナ? 家族全員からうとまれ、嫌われ、否定され続けたヤツのことをサァ」

「黙れ」

少年の言葉を、大空は瞬時に遮る。

「家族から大切にされなかった者がいることと、お前が誰かの家族を殺すことは関係ない」


少年はニヤリと笑った。

「ははハ! やっぱり泣きおどしは通用しないネ。でも、その程度で揺らぐ心なんて興味ないからネ、安心したヨ! その心、その魂、ボクにくれヨ!」


 少年は右手で地面に刀を突き刺し、左手は反対に上に高く掲げた。すると、地面の刀からは召喚用の陣が現れ、無数の悪鬼が呼び出され、掲げられた左手には巨大な火の玉が現れた。


「御月と言ったか?」

大空は少年を見つめたまま、自分の後ろにいる御月に問いかける。

「見ての通りやつは本気だ。こちらも協力しなければ勝ち目はない」

「どうするの?」

御月は大空を見つめる。

「私の攻撃では奴に大したダメージは与えられない。そこで、お前の攻撃に期待する」

「分かったわ」

「……驚かないのか?」

「えぇ。その代わり、あなたがサポートしてくれるんでしょ?」

「あぁ。私の能力は負けないことに特化している。サポートに回れば、お前が傷つくことはない」

「ふふっ、ありがとう。じゃぁそろそろ……」

「あぁ……行くぞ!」

二人は同時に飛び出し、襲い来る悪鬼に向かって武器を向ける。

みちびけ、極閃鏡きょくせんきょう!」

らせ、月煌輪げっこうりん!」

大空が悪鬼の時を止め、動きを封じた所を、御月の閃光が全て突き貫く。間髪を入れずに二人の背後から飛来する悪鬼の攻撃を瞬間移動でかわすと、二人は悪鬼たちを見下ろせる上空に移動した。

「見えるか? 御月」

「えぇ、悪鬼の位置は全て把握はあくしたわ」

「防御は気にしなくていい、全力で行け」

「言われなくても!」

御月が右手を水平に振ると、地面に無数の光の陣が出現した。その陣の中心から放たれる光線は的確に悪鬼を打ち抜き、少年が呼び出した悪鬼の数を一気に減らした。


「すごいなァ、その攻撃。ボクもやってみようカナ……」

少年は集めた炎を収束させ、空中の御月たちを狙撃した。大空はそれに対して瞬時に結界で自分たちの身を守り、御月は炎に光線をぶつけた。しかし、光線は炎の軌道きどうをわずかにらすことしかできなかった。炎は大空の結界を粉砕し、彼の腕をかすめる。

「うぐっ!」

炎は腕から急速に燃え広がり、彼は苦悶くもんの表情を浮かべる。同時に、宙に浮く二人を守っていた結界が消え、二人は浮力を失い、急速に落下し始める。

「大空さん!」

心配そうに大空を見つめて叫ぶ御月だったが、大空はそんな彼女を押し退ける。

「私に構うな! お前にまで燃え移るぞ!」

そう言うと、大空は最後の力を振り絞り、御月にのみ結界を張り直し、自身はそのまま落下していった。


 結界に包まれた御月はゆっくりと地面に着地し、その体に傷一つ付いていない。しかし、その表情に余裕はなく、歯を食いしばりながら少年を睨みつける。

「さァ、これでキミを守ってくれるオオゾラはいなくなっタ。覚悟は、いいカイ?」

少年の周りには、三体の黒い竜がたたずみ、鋭い牙をき出しにする。

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