第57話 大切な家族を守るために

 御月みつきが去った後も、大空おおぞらと少年は学校で戦い続けていた。

「はァ……キミ、本当にしぶといネ」

少年は面倒くさそうにため息を

「キミの攻撃は大したことないケド、チョコマカと逃げ回っては無駄に堅い結界で守って……そのくせボクの邪魔だけはすル。鬱陶うっとうしいナァ」

そう言って、彼は大空を見下ろす。

「……」

大空は少年の言葉に言い返すことはなく、沈黙するのみだった。傷を負うことはなくとも長い戦いの中で疲弊ひへいし、今も立っているのがやっとだ。しかし、その瞳はどこか悲しく少年をにらみつけていた。

「認めよう。どうやら私に、お前を倒す力はないようだ」

「そりゃそうサ。キミみたいな普通の人間がボクに勝てる訳ないだロウ?」

「あぁ。だが、勝てずとも、負けない方法ならある」

大空は手にした鏡を少年に向ける。すると少年は初めて焦りの表情を見せた。

「その鏡ハ!」

神器じんぎ極閃鏡きょくせんきょう』。この世の法則を支配する三つの神器が一つ、時の流れをつかさどる鏡だ」

「……キミ、名前はオオゾラって言ったっけ? あぁ、思い出したヨ。つまりキミが⁉︎」

少年は黒い炎の弾丸を大空に向けて乱射した。大空は何度も瞬間移動しながらそれらを避け、着実に少年へと近づいていく。それを見切った少年は大量の虫型悪鬼をけしかけたが、大空はそれを結界によって全て弾いた。そうして、瞬く間に少年の眼前に来た大空は、少年の懐に鏡を突きつけた。


そらみちびけ、極閃鏡きょくせんきょう!」

大空が叫ぶと、少年の周りの空間が歪みだした。

「私の全ての力を使い、お前を悠久の時の果てへと送り込む!」

歪みは激しい音と光を放ちながら少年の体を飲み込んだ。

「悠久の時の果てとはよく言うネ! 前やった時はたったくせにサァ!」

「あの時とは違う」

大空は極閃鏡を握る手に力を込める。

「この数十年。私は自分の非力さを恥じた。家族を守れなかった自分を呪った。だが今度こそ、を私は守り切って見せる!」

空間の歪みは更に激しく渦巻き、大空の体までも飲み込む勢いで広がっていく。


「いいねェ、オオゾラ。さっきまでの消極的なキミとは違うその激しい心、ボク好みだヨ。……でもネ」

少年がそう言うと、黒い炎が歪みから溢れ出し、空間を侵食していった。

「この時代はボクの力になる心、邪悪な意志があふれ返っているんダ。今更キミ一人じゃボクは止められないヨ」

黒い炎は歪みを完全に覆い尽くし、大空の魔力を消滅させた。それと同時に、大空は激しく咳き込み、胸を抑えて倒れ伏した。

「ごほっ! ごほっ! がはっ……」

「残念だったネ、オオゾラ。これでキミはもう対抗の手段を持たナイ。キミの負けサ」

少年は勝ち誇ったようにニヤリと笑い、地面に膝を落とした大空を見下ろす。

「最後にいいモノを見せてあげるヨ」

そう言って、少年はゆっくりと自身の顔を隠していたフードを外した。

「どうだい? キミにとっては懐かしい顔だロウ? 

大空は、怒りと悲しみで唇を震わせながらも、その場から動かなかった。

「さァ、これで悔いなくあの世に行けるネ。サヨナラ、オオゾラ」

少年は手にした刀に黒い炎をまとわせ、大空に斬りかかった。


「照らせ、月煌輪!」


 少年と大空を切り離すように、金色の光が二人の間をさえぎる。七志は咄嗟とっさに距離を取り、大空は光の出所を探し、振り返った。

「お前は……なぜ戻って来た⁉︎ 逃げろと言ったはずだ!」

大空が振り返った先にいたのは、まだ幼くも美しい少女、御月みつきがいた。

「なぜかって? 私もあなたと一緒、大切な家族を守るために、戻って来たの!」

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