第55話 守りたい家族の姿
「
御月は先ほどからかなりの距離を走ったが、誰一人として、他の村人に出会わなかった。それどころか、御月は何人かの村人の死体を発見した。手足をバラバラにされた死体、
「御祈……御祈ぃ!」
すると、御月の近くの
「誰かいるの? いるなら返事をして!」
御月が問いかけると、中から子どもの声が聞こえて来た。
「誰か外にいるんですか?」
その声は、非常に落ち着いていた男の子の声だった。
「すみません、中からじゃもう出られないんです。助けてもらえませんか?」
御月はこの声に聞き覚えがあったが、瓦礫のせいで声が籠っており、誰なのか判別することができなかった。
「分かった。今助ける!」
御月は必死に瓦礫をどけ、中にいる人を助けた。すると、中から数人の子どもたちが出てきた。
「ありがとうございます、助かりました……」
最初に出て来たのは先ほどからの話をしていた男の子だった。御月はその子の姿を見て、ハッとして叫んだ。
「雅輝⁉︎ 雅輝じゃない!」
「御月さん? 無事だったんですね!」
「雅輝こそ……と言うことは……」
御月は、雅輝と一緒に出て来た子どもたちの方に目をやった。
その中に、御月は見つけた。自分にとって最も大切な人、何に代えても守りたい家族の姿を。
「御祈! 御祈なのね!」
「お姉ちゃん? ……お姉ちゃん!」
二人は強く抱きしめ合った。
「よかった……御祈、あなたが無事で……」
「お姉ちゃんこそ……急に一人でどっかに行っちゃって、心配したんだよ」
お互いの無事を確かめ合うように抱き合う二人は、安堵の涙をこぼした。ミノリは御月に抱きついたまま、今まで何があったのかを話した。御月がいってしまったあと、三人で逃げ続けたこと、村の大人たちが自分たちを逃してくれたこと、そして崩れた瓦礫の中に長い時間閉じ込められてしまったこと。それら不安だった出来事をミノリが語る間、御月はずっと、彼女を抱き続けた。
「ごめんね。でも、もう大丈夫だから」
「……うん」
「さぁ、一緒に逃げましょう?」
そう言って、御月は彼女を抱きしめる手を離した。
「逃げるって……どこに? 村はもうめちゃくちゃで、逃げる場所なんてないよ?」
「それは……」
御月はそう言って、雅輝の方を見た。雅輝はそれを見て、何かを察したかのように口を開く。
「村の大通りを東に進んだ先は、大きな町に続いています。少し遠いですが、そこまでなら何とか歩いて行けると思います」
「ありがとう、雅輝。さぁ、御祈も大智も、一緒に行きましょう?」
しかし、ミノリと大智は動こうとはしなかった。
「どうしたの、二人とも?」
「コワイよ……」
御月の問いかけに、大智が答える。
「コワイよ。こんな暗いし、まだ歩くなんてイヤだよ。もうつかれた。歩きたくない……」
「でも!」
大智の言葉に、ミノリが反応する。
「でも、ここにいたってダメでしょ? 早く逃げないと!」
「ヤダ! もうムリ!」
「じゃぁ置いて行くよ!」
「ヤダ!」
「それなら逃げないと」
「ヤーダ!」
「わがまま言わないの!」
「ヤダァ!」
二人のストレスは限界に達していた。無理もない。暗闇の中、悪鬼から逃げ続け、さっきまでずっと不安と恐怖の中、瓦礫に閉じ込められていたのだ。そこからさらに長い距離を歩いて逃げようとは、幼い彼らが思うはずもない。言い合いになった二人は、次第に涙まじりに叫び始めた。雅輝は、何とか二人をなだめようとしていたが、二人の泣き声はさらに大きくなるばかりだった。
「
御月がそう言うと、四人の周りにいくつもの光の玉が現れた。それらは辺りを淡いオレンジ色で照らし出し、近づくと優しい暖かさを感じられる。
「ごめんなさいね、みんな。今の私にはこれくらいしかできない。でも、これで暗くはないでしょう?」
ミノリと大智は言葉なく驚き、顔を見合わせ、そして同時に跳ね上がった。
「すごい! みっちゃん何これ! 光ってる! すげぇ!」
「ねぇ、お姉ちゃん! これどうやったの? すごい、魔法みたい!」
「うふふ。これはね、みんなを安全に逃がすためにもらった魔法のアイテムなの。さ、一緒に行きましょう?」
「「うん!」」
御月は、大智とミノリの手を取り、雅輝と共に遠く離れた町への道を歩き始めた。
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