第53話 竜
やがて御月は、多くの悪鬼を倒す中で、あることに気がついた。悪鬼は必ず、特定の方角から現れるのだ。そして、悪鬼が来る方向へと向かえばこの騒動の原因に関わる何かがあると思った御月は、急いでそちらに駆け出した。
たどり着いたのは、村で最も大きな建物である学校。その校庭の中心には、黒く塗りつぶされた景色とは対照的に、不気味なほどに白い衣服を身に
「あなたが、あの化け物を生み出しているの?」
御月がそう問いかけると、少年は振り向いた。少年の顔はフードで隠れていたが、わずかに見えたニヤついた口元だけでも、御月に嫌悪感を与えるのには十分だった。
「キミ、あの大群を抜けて来たのカイ? 一人デ? そのちっぽけな棒でカイ?」
癪に障る声だ。人を小馬鹿にするような、見下すような、そんな邪悪な意思が垣間見える。それに、こちらの質問に答えていない。そんな態度が気に食わなかった。
「質問に答えて。あの化け物を生み出しているのは、あなたなの?」
御月の質問を受けて、少年は少し不満そうに答える
「あァ。その通りサ」
「何がしたいの! 何が目的なの!」
御月は手にした棒を少年に向け、声を荒げる。
「人探しサ」
「他にもやり方があったでしょ?」
「情報不足でネ、手当たり次第にいくしかないのサ」
「私たちの村をめちゃくちゃにする必要があるの⁉︎」
「ボクにとってはそうだケド……って、もういいカイ? キャンキャン吠えるガキは面倒だネェ……」
少年はため息混じりで答える。
「キミは凄いケド、ボクの探している人とは違うみたいだから興味ないんダ。邪魔だから死ねヨ」
少年がそう言うと、御月の周囲を取り囲むように大量の虫型の悪鬼が現れた。巨大な鎌、鋭い爪、無数の手足など、四方をおびただしい数の刃に囲まれ、その全てが御月に向けられている。そして、それらは御月の肉を跡形もなく無惨に引き裂こうと、一斉に襲いかかった。
「あーア、この場所から強い心を感じたケド、違ったカァ。……まァいいカ。また、別の場所に……」
ドオオオオオオオオオンンン!
少年が言い終わるより先に、
「あなたが私に興味がなくても、私はあなたに用があるの。村を壊したあなたを、私は許さない!」
「……ヘェ」
少年は更に不気味な笑いを浮かべた。しかし、そこには先ほどのような見下した態度は見られない。
「キミいいネ。すごくイイ。とてつもない心の強さを感じるヨ」
そう言って、少年はゆっくりと御月に近づく。
「キミは妙な命の形をしているネ。そうカ、心と命が繋がっているのカ……へェ、すごいじゃないカ!!」
少年は左手を高く掲げる。
「探している人とは違ったケド、気が変わっタ。キミの心を食らったラ……一体どれだけの力が手に入るのかナァ!」
少年は掲げた左手を振り下ろすと、地面一帯に黒い炎が燃え広がった。しかし、それは攻撃のための炎でない。これは召喚のための炎、悪鬼たちを呼び出すための陣なのだ。
「キミを倒すには、半端な力じゃ無理ダ。だから特別サ。ボクの分身の中でも更に強力なこいつらで相手してあげるヨ!」
炎の陣から飛び出したのは
「あはははハ! さァ、足掻いて足掻いて、キミの心の力の高まりを見せてくれヨ!」
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