第52話 おねえちゃんなんだもん
十年前、
御月たち姉妹は、近所に住んでいた
「だいじょうぶ。おねえちゃんは、おねえちゃんなんだもん」
子どもらしい、拙い言葉であったが、御月にはそれがとても嬉しかった。何よりも、自分は自分だと言ってもらえたことに、救われたような気持ちがした。何もできなくとも、自分は自分なのだと、自信を持つことができたのだ。
そんなある日、事件が起こる。
六月二十一日。梅雨の晴れ間に恵まれた
「あれ? もう外が暗いですね」
見ると、さっきまで明るかった外が真っ暗になっていたのだ。
「今日の日没は十九時……まだ二時間も先のはずなのですが」
御月には、雅輝が何のことを言っているのか分からなかったが、雅輝の言うことなのだからそうなんだろうと、なんとなく思った。
「ちょっと外を見てきますね」
そう言って、雅輝は部屋を出て行こうとしたが、ミノリがそれを止めた。
「まって! なにか……へんなおと、きこえない?」
そう言われて、御月たち四人は耳を澄ます。
ズシン……ズシン……
ズシン……ズシン……ズルズル……バキッ
何か大きな物の足音と、何かを引きずるような音、そして、何かが折れるような音が、遠くから聞こえてきた。そして、それはどんどん近づいて来る。もうその音は、耳を澄まさずとも聞こえてくる。次第に四人は恐怖でガタガタと震え出す。
ズシン……ズシン……
そして、その音は、四人がいる部屋の隣で止まった。
「みんな! ふせて!」
ミノリがそう叫んだ次の瞬間、部屋の屋根は吹き飛んでいた。何が起こったのか、その場にいた全ての人間が理解できなかった。
たった一人。御月を除いて。
御月はその目で確かに捉えていた。屋根を吹き飛ばし、自分たちを襲った黒い虫型の怪物、
こいつは、私達の敵だ。
御月は、瞬時にそう理解した。理屈ではなく、本能で、感覚で、直感的に理解した。今ここでこいつを倒さなければ、自分も、自分の一番大切な妹も殺されてしまう。その考えに自分が気づいた頃には、御月は飛び散る瓦礫の中から的確に鉄パイプを掴み取り、真っ直ぐ悪鬼に向かって走り出していた。御月は瓦礫の嵐を潜り抜け、かすり傷一つ付かないまま悪鬼の懐にたどり着く。そうして、腕を思い切り振りかぶり、鉄パイプで殴りつけた。攻撃を受けた悪鬼は吹き飛ぶより先に砕け散り、粉々になって消えていった。
周りを見ると、空は黒い炎に覆われており、辺りには他にも多くの悪鬼がいた。
「雅輝……
そう言って、御月は走り出した。
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