第48話 誰も覚えていない

 SOLAソラの基地に着いた真一は、総天祭そうてんさい予選後のトラブルについて多くの隊員に聞いて回った。

「ねぇ、いたでしょう? 七志ナナシジンって言う人型の悪鬼が⁉︎」

「いたか? そんなの?」

「いましたよ。黒い炎で、みんなを攻撃してたあいつです。あいつが七志ですよ。予選を最後まで見てたなら覚えているはずです!」

「黒い炎って……夢でも見てたのか?」

「夢じゃないですよ。大空隊長も来て、みんなと一緒に戦ってやっと倒した。あれは夢なんかじゃない」

「大空? あぁ、前の隊長か。そんなの来てたか? それに、お前よく先代の隊長の名前なんて知ってるな? さすが、勉強熱心だな」

「……もう、いいです。ありがとうございました」

始めはそんなはずないと食い下がった真一だが、相手がうそをついている様子はなく、次第におかしいのは自分なのではないかと思い始めてきた。その後、何人もの隊員に同じ質問をしたが、七志のことを覚えている人は誰一人いなかった。しかし、真一は同じく七志と戦った人物なら覚えているかもしれないと考え、鋼太こうたや彩華が《あやか》治療を受けている医務室へ向かった。


 真一の期待もむなしく、鋼太と彩華に聞いても答えは同じだった。

「すまないが、予選のことは途中から記憶が曖昧でな。よく覚えていないんだ」

「ナナシ、ナナシ……うーん、そんなのいたっけ? ごめんしんちゃん! わかんないや!」

真一は二人の返事を聞いて愕然がくぜんとした。しかし、怪我けが人にこれ以上問い詰めるわけにもいかず、おとなしく引き下がった。

「そうですか……すみません。ケガ、早くよくなるといいですね。お大事にしてください。それじゃ」

そう言って、真一が医務室を去ろうとしたその時、奥の扉が開き、中からミノリが歩いて来るのが見えた。おそらく彼女は、同じS級の仲間である雅輝まさき大智だいちを見舞いに来たのであろう。そして、彼らのケガがよほど深刻だったのか、彼女は少し不安そうな顔をしていた。

 

 真一は、ミノリにも七志のことを尋ねたいと思っていたが、今の彼女の状況を見ると、とてもそれどころではなさそうだ。それに、今までのことを考えると、きっとミノリに聞いても七志のことを覚えていないことが予想できた。真一は、結局何もすることはなく、ただ彼女のことを目で追った。ミノリはそのまま医務室を出ようとしたが、真一の横を通り過ぎる時、一瞬目が合った。しかし、ミノリも真一に何も言うことはなく、出口に向かっていった。そして、真一も彼女の後に続いて出ようとした。真一が彼女の後ろに立った時、かすかに彼女のつぶやく声が聞こえた。


「どうして、誰も覚えてないんだろう?」


 その声を聞いて、真一は思わずミノリの肩をつかんだ。

「ミノリ! ……君も、七志のことを覚えているのか⁉︎」

「……真一も、覚えてるの?」

やっと、七志のことを覚えている人に出会えた。

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