第47話 何かおかしい
真一は
その翌朝、彼は難しい顔をしたまま考え込み、目の前にある朝食に手を付けづにいた。
(流石におかしいだろ。他のみんなは傷だらけで、集中治療を受けた人までいたのに、僕は無傷なんて……。一体何があったんだ? 考えられる原因は、あの白い空間での……)
「真一?」
「うわぁっ⁉︎」
いきなり話しかけられた真一は驚いて、声のした方を見た。
「何だ……
そこにいたのは、寝巻き姿のままパンを持った妹の真理奈だった。
「何だって、失礼ね。私が家にいちゃいけないわけ?」
「いや、そんなことはないけど」
真一が驚いたのは、真理奈が突然話しかけたことだけではない。
(一瞬、真理奈の声が、あの空間での声に聞こえたけど……気のせいか)
「何よ、はっきりしないわね。それより、朝から目の前で辛気臭い顔されるのイヤなんだけど? ……何かあったの?」
「まぁね」
「何? 昨日の試合で何かあったわけ?」
真理奈はパンをかじり、テレビのニュース番組を見ながら、片手間に真一の話を聞く。
(そういえば、真理奈には総天祭のことは部活の試合と言っていたっけ?)
「うん、試合には勝ったんだけど、色々と気になることがあったんだ」
「ふぅん、そうなのねぇ」
「そう言えば、真理奈からもらったヘアゴムも切れちゃって……」
「はぁ⁉︎」
真理奈はテレビを見ていた視線を真一に向け、驚きと怒りが入り混じった声を上げる。
「ちょっと、ヘアゴムを一日で切るってどうなってるのよ? どんな使い方してたらそうなるわけ?」
「ご、ごめん」
「だからさっきからそんなボサボサ頭のままだったのね、もう、信じられない。……で。あなた、替えのゴムはあるわけ?」
「……ありません」
真理奈の迫力に押された、真一は思わず敬語で答える。
「はぁ。だと思ったわ。さっさとどっかで買ってきなさい。って言いたい所だけど、あなた今日もこれから部活あるんでしょ?」
「はい」
「仕方ないわね、また新しいのあげるわよ。ちょっと待ってて、今取ってくるから」
そう言って、真理奈は自分の部屋へ向かった。
「はい。今度は大切に使いなさいよね」
真理奈は真一に新しいヘアゴムを手渡し、そのまま席につき、またパンを食べる。
「ありがとうございます」
「次からはお金取るからね! それが嫌なら自分で買ってきなさい!」
「分かった……ちなみに、いくら取るんだ?」
「千円」
「はぁ⁉︎」
「一個千円」
「流石に高すぎないか?」
「再発防止策よ」
「そうか……でも、ありがとう!」
真一は受け取ったゴムで髪を結い、朝食をガツガツと食べ、すぐにたいらげてしまった。考えてみれば、真一は総天祭予選でやっとみんなと仲間になれたのだ。こんな考えても仕方のないことに悩んでいる場合じゃない。
朝食を食べ終えた真一は、食器を片付け、皿洗いをし、歯を磨き、もう一度髪を整え、前日に洗濯に出して綺麗になった制服に着替えた。
「よし! 行ってきます!」
真一は元気にそう言って、家を出た。
(今の
真一は、いつもよりも早足でSOLAへと通じる神社に向かった。何だか足取りも軽く、朝の空気も気持ちよく感じられる。
ピコン
電子音と共に、真一の端末にメールが届いた。見ると『総天祭運営委員より緊急連絡』と件名に書かれていた。真一は急いでそれを開き、内容を確認した。
『件名:総天祭運営委員より緊急連絡
先日行われた総天祭予選終了後、シミュレーターに原因不明のトラブルが発生したため、本日行われる予定でした総天祭本戦を一週間後に延期します。
また、総天祭予選に参加した隊員に原因不明の傷や体調不良が見受けられるとの報告を多数受けております。もし、総天祭予選に参加した隊員の中で少しでも異常を感じられた方がいましたら、医療班「
「……何だ、これ?」
真一はこのメールの文面に違和感を覚えた。
(シミュレーターに原因不明のトラブル? 原因なんて
「何かおかしい、早くSOLAの基地に行って確かめよう!」
真一は急いで神社へと駆けていった。
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