第37話 僕にできることはないか⁉︎

 雅輝まさきの放った矢は、七志ナナシの手足はもちろん、胸や腹など致命傷になりかねない所にも刺さっていた。しかし、七志は痛がることなく、まるで何事もなかったように口を開く。

「こんなちっぽけな矢でボクを拘束したつもりなのカイ?」

七志は自身に刺さった矢を黒炎で燃やし、拘束から逃れた。


 このバーチャル空間では、出血も傷も再現されている。しかし、七志の体には傷一つなく、血の一滴も流れてはいなかった。


「ボクを地面に下ろせば勝ち目があるとでも思ったのカナ? 残念だったネ、こんな攻撃じゃ、一瞬の足止めにしかならないヨ」

七志は勝ち誇ったように宣言する。しかし、


「一瞬あれば十分だもんねー!」


 元気な少年の掛け声と共に、急速に七志に向けて飛来する影があった。影はそのまま七志に激突し、七志をわずかによろめかせた。


「へへーん! 飛べるのがアンタだけだと思ったら大間違いだ!」


 影の正体は、遊浮王ユーフォーに乗った大智だいちだった。

「このままボッコボコにしてやるぞー!」

大智はマジックアームの拳を突き出し、よろめいた七志に追撃を与えた。しかし、この攻撃は七志の刀によって簡単に防がれてしまった。

「流石はS級と言った所カナ? いい動きダ。でも残念、ボクには通用しないヨ」

七志は刀を持つ方とは逆の腕を大智に向かって突き出し、そこに炎を集め始めた。危機を感じた大智はすぐに距離を取ろうとした。しかし、最大出力で移動しようとしても遊浮王が全く動かない。見ると、黒炎が遊浮王の隅々にまで絡み付き、動きを封じていたのだ。焦りの表情をする大智を見て、七志はニヤリと笑った。

「あはははハ! キミが最初の犠牲者サ!」

そう言って、七志は炎を放った。その時。


け、極王剣きょくおうけん


 大空の声と共に、大智は遊浮王ごと七志の目の前から姿を消し、黒炎は何もない空間に放たれるのみだった。

 

 大空は、きらびやかに装飾された宝剣を構えていた。そして、安心した様にため息をつき、剣の切っ先を自身の横に向けてゆっくりと下ろした。すると、大空の横に突然大智が現れた。何が起こったのか分からないという様子の大智は少しの間混乱していたが、すぐに自分が助けられたのだと気がついた。

「……うわー、死ぬかと思ったぁ。……大空さんありがとうございます!」

大空は、それに対してただうなずき、再び七志と向き合った。

「流石は特別な悪鬼と言った所だな。いい作戦だった。だが残念なことに、私たちには通用しない」


 大空の発言は明らかな挑発行為だった。しかし、七志は怒りをあらわにすることはなく、ただ静かにため息をついた。

「はァ……オオゾラ。キミは戦えないクセに、本当に厄介な能力を持っているネ」

「あぁ、お前から皆を守るために、私が作った武器だ。戦えない私にも、やれることはある」


 七志との戦闘はさらに激しさを増していき、SOLAの隊員十数名で同時に行われる複雑な戦いになっていった。しかしそんな戦況の中でも、全ての隊員たちはまるで思いが通じ合っているかのように見事な連携を見せている。

 真一は、そんな様子をただ見ていたが、やがて耐えきれなくなった。

 真一は考えた。

 この戦いを動かしているのは間違いなくミノリか大空だ。ミノリはきっと、あの笛でみんなの能力を強化している。だが、僕にはその音が聞こえない。大空は、不思議な心機を多く持っているが、情報が少なく、よく分からない……。


 何もできないのか。真一の頭にそんな考えがよぎる。


 何の指示もないまま戦いに入っても邪魔になるだけ。それならばいっそ、何もしない方がみんなのためだ。そんな後ろむきな考えも浮かんだ。

 しかし、すぐにその考えは振り払われた。

 真一は元々、戦っている人を目の前に、ただ見ているのが嫌だから戦いを始めた。誰かと一緒に戦いたくてSOLAに入った。ならば、ここで何もしない訳にはいかない。例えわずかなことでも、皆の役に立ちたいのだ。


 真一は立ち上がり、大空とミノリに向けて叫んだ。

「大空さん、ミノリ! 僕も一緒に戦いたい。僕に、できることはないか⁉︎」

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