第36話 眺めることしかできなかった

「ボクを倒すだっテ? 面白いことを言うじゃないカ。やれるものならやってみなヨ!」

そう言うと、七志ナナシの体は宙に浮き上がる。

 そして、手のひらの火の玉はさらに激しく、そして大きく燃え上がった。


「時間がないみたいだね……一気にいくよ!!」

そう言って、ミノリは笛を構えた。そして、大きく息を吸い、笛を奏でた。

 しかし、今回も真一には、何をしているのかも分からない。それでも、大空とその他多くの隊員たちの雰囲気が変わるのを感じることはできた。


 状況についていけない真一は、完全に蚊帳かやの外だった。


「ははハハハっ! 一気にいク? それはこっちのセリフだヨ。君たちがと分かったからには生かしておく意味はないからネ。全員まとめて焼き尽くしてあげるヨ!」

七志は掲げていた手を真一たちの方に向けた。すると、手のひらの巨大な火の玉は小さく凝縮され、不気味なほどに安定した高エネルギーの塊となった。


「死ネ」


 七志の一言とともに放たれたそれは、地面に当たるとともに大爆発を引き起こした。

 その衝撃は地面を砕き、瓦礫がれきさえも一瞬で焼き尽くし、全てを滅ぼす黒炎が会場全体に燃え広がった。


 七志は、眼下に広がる黒い炎の海を見下ろし、つぶやいた。

「あーア。あっけないなァ。キミが悪いんだよ、オオゾラ。キミが来なかったら、ボクはシンイチと少し遊んで帰ろうと思っていただけなのニ。キミのせいでキミの大切な仲間たちは全滅しちゃったじゃないカ? バカだネェ……」


「それはどうでしょう?」


 下から聞こえてきた声に、七志は驚いた。そして次の瞬間、ヒュンという軽い音が聞こえた。同時に自分の左腕を見ると、一本の矢によって貫かれていることに気がついた。七志は唖然あぜんとしていると、自分の体がものすごい力で地面に引き寄せられていくではないか。見ると、矢にはワイヤーが巻き付けられており、そのワイヤーは火の海の中へと伸びている。

「何ダ、これハ?」


 ずるずると引き下ろされる七志の目の前の炎が消え、中からは弓を構えた雅輝まさきと、ワイヤーを巻き取る彩華あやかの姿が現れた。

「ヘェ、S級の弓使いに怪力女じゃないカ。どうやってあの炎の中を生き残ったんダイ?」

七志の言葉を受け、雅輝は答える。

「あなたの炎を防いでくれる人がいたんです。そのお陰で、こうしてピンピンしています!」

雅輝はさらに数本の矢を七志の手足にち込んだ。そして、その全ての矢には先ほどの矢と同様にワイヤーが付いており、七志は更に強い力で彩華に引き寄せられる。


「先ほど、私では無理だと言ったな。あの言葉にうそはない」


 そう言って炎の中から現れたのは、黒い水晶玉を構えた大空だった。

「私では無理だ。しかし、みなの力を借りれば防ぎ切れる」

大空の隣には、剣を眼前に構えた鋼太こうたが、そしてその後ろには笛を奏で続けるミノリの姿があった。やがて、会場を覆っていた全ての炎は消え、中からは無傷の隊員たちが現れた。隊員たちは一人も倒されておらず、全員が大空の作り出した結界によって守られていたのだ。

「ミノリ、お前がいなければあの攻撃で全員やられていただろう。感謝する」

大空は、少しだけ顔をミノリの方に向けて、そう言った。

「お前は本当に強くなったな。私と鋼太の持つ防御の力をここまでするとは……」

ミノリは笛を構えたまま、軽く会釈をした。まるでそれだけで言葉が通じたように、大空はわずかに笑い、すぐに七志の方へと向き直る。


 真一はその一連の光景を、ミノリの隣でただ眺めることしかできなかった。

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