第27話 優勝候補 S級代表

 鉄也てつや晶子あきこは予選の説明を始める。

『ここにいるのはデータで再現された虫型と獣型の悪鬼たちだ。合図と共にこいつらが一斉に参加者諸君に襲い掛かるぞ!』

『もちろん、これはシミュレーターの中での出来事なので、攻撃を受けても現実に影響はありません』

『三百体の悪鬼が倒された後、最終的に立っていた人が本戦進出だ!』

『当然ですが、悪鬼を一体も倒せなかった人に本戦に参加する権利はありませんよ!』

『逃げ切れば勝ち、だなんて考えないことだな!』


 ざわつく参加者と、盛り上がる観客たち。

 参加者は、三百体の悪鬼と戦わなければいけないことに不安を覚えた。参加者の総数は百二十二人。単純計算で一人あたり二、三体も倒さねばならない。普段の作戦であれば何人かで連携してやっと一体倒している敵を何体も、それも、たった一人で倒さなければならないからだ。

 そして、そのことを知っている観客たちは、一騎当千の隊員が現れることを期待しているのだ。


 目の前にいる悪鬼は数十体か。間違いなく三百体もいないな。きっと後から増えてくるのだろう。だが、一人で突っ込んでいってもすぐにやられるのは目に見えている……。

 真一は必死に作戦を考えた。

『それでは、カウントダウンを開始します』

 狙うのは弱い小型の虫型悪鬼から、そして次は大型の……。

『三』

 翼を持った獣型は降下したタイミングを狙い打つ。問題は飛んでいる時の他の悪鬼たち……。

『二』

 正面の防御はできるが、後ろからの攻撃は……誰かに任せるしかないのか?

『一』

 焦る真一に、七志は語りかける。

「大丈夫サ、シンイチ。後ろはボクに任せて、キミは正面の敵に集中シテ……S級の人たちにおくれを取らないためには、協力するしかないのサ……」


『スタート!』


 開始の合図が下されると共に、誰よりも、何よりも早くに飛び出した影があった。そして次の瞬間、悪鬼の群れの大半は、突進してきたその影にはじき飛ばされてしまった。虫型も、獣型も、翼を持ち空を飛べる悪鬼でさえも、身動きする間もなく一瞬でぎ払われてしまった。

 それを見た隊員たちはあまりの出来事にほうけてしまい、ただ目の前の出来事を眺めることしかできなかった。

 悪鬼を弾き飛ばしたその影は、舞い上がる砂埃すなぼこりの中その異様に長い両手を広げた。それは人の手ではない。長く伸びた心機の腕だ。そして煙が晴れると、その心機を操る隊員の姿が見えた。


 真一は、その姿を見て驚いた。その隊員は、小学校高学年くらいの小さな少年だったのだ。少年は、他の隊員たちがいる方を振り返り、大声で宣言した。


「へへーん! 悪鬼三百体なんて、オレにかかれば一瞬だもんね!」


 得意げに語る少年は、まるで小さな空飛ぶ円盤のような心機に搭乗していた。その心機は下部から二本のマジックアームを伸ばしており、それは少年の意のままに動かせるようだ。

 それにしてもあの機動力……とんでもないぞ!


『おーっと、予選で最初に悪鬼を倒したのは、今大会優勝候補の一人! S級代表の風間大智かざまだいち選手だ!』

『すさまじい勢いで、一気に十三体もの悪鬼を倒しましたね。心機解説の鉄也さん、あの心機はどういったものなのでしょうか?』

『彼の心機は、空飛ぶ円盤型の心機、遊浮王ユーフォーだ!』

『そのまんまの名前ですね』

『言っておくが、名前を付けたのは初代隊長で、俺じゃないからな。さて、遊浮王の特徴と言えば、なんと言ってもそのスピード。今のは、遊浮王の最大出力で突進して、あのマジックアームでぶん殴ったんだろう』

『なるほど。目で追えないほどのスピードでの突進ですが。それでは虫型、獣型の悪鬼はひとたまりもないですね』

『その通りだ。さぁ、参加者諸君!うかうかしてるとこれから先の悪鬼は、全て大智選手に倒されてしまうぞ!』

『残りの悪鬼は二百八十七体!みなさん、頑張ってください!』


 大智は、その鉄也と晶子の実況を聞いてさらに気分がよくなったようで、ニッと笑ってガッツポーズをして見せた。

「よーし、このままオレ一人で三百体全部倒しちゃうもんねー!」

ハッタリではない。大智は、その気になれば本当に三百体の悪鬼程度なら一人で倒せてしまう。そう感じさせるほどの自信が彼にはあった。

「じゃぁ、さっき倒し損ねた悪鬼も、さっさとぶっ倒すぞー!」

大智は再び悪鬼の方へ向き直り、マジックアームで拳を作った。

「まずはお前だぁー!」

大智は大きく拳を振りかぶり、目の前にいた虫型悪鬼めがけて、その拳を突き出そうとした。


 その時、静かに風を切る音がした。

 そして次の瞬間、大智の目の前にいたはずの悪鬼は、頭部に突き刺さった一本の矢を残して消滅していた。

 再び風を切る音がした。今度は一回ではない、複数回連続で、とてつもない速さで矢が放たれる。

 すると、先ほどまでいたはずの悪鬼は全て消滅し、その後には無数の矢だけが残っていた。


「大智さん。あなただけに悪鬼を倒される訳にはいきません。私だって、この大会で優勝を狙っているんです」


 そう言って、隊員たちの集団から静かに抜け出したのは、銀の髪に眼鏡をかけた、細身の青年だった。


『出たー! 今大会優勝候補筆頭! S級代表の八雲雅輝やくもまさき選手の登場だ!』

『彼の心機は……弓ですか? とても威力が高い武器には見えませんが?』

『物理的な破壊力だけを見た場合、確かにそうだ。しかし、彼の心機、魔弓まきゅうから放たれる矢は雅輝選手自身の魔力で生成したもの。悪鬼は、その突き刺さった矢から直接体内に魔力を注がれることになる。まさに必殺の一矢いっしって訳だ』

『とんでもない連射でしたが、あれも心機の性能ですか?』

『いや、あれは雅輝選手の技量によるものだ。連射性能だけを見た場合、弓は銃に劣る。しかし、直接自分の手で矢を放つ分、弓の方が込められる魔力の量が段違いに多い。それが、彼があえて弓を使う理由だ』

『なるほど、雅輝選手は己の技術によって弓の弱点を克服したんですね』

『そうだ。今の雅輝選手は、悪鬼にとっては天敵だ!』

『さて、最初に出現した三十体の悪鬼は全てやられてしまいました』

『まだまだ悪鬼は出てくるぞ! 残り二百七十体! まだ一体も倒せていない隊員にも、チャンスは残されているぞ!』

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