第26話 二人で総天祭を勝ち上がってやろう!
「
聞いたことのない名前だった。真一は、C級の隊員とそれほど交流がある訳ではなかったが、それでも、全員の顔と名前は覚えていた。その中に、七志ジンなどという人物はいなかったはずだが。
「ごめん、キミがボクを知らないのも無理はないネ。何せボクは、つい先日入隊したばかりだかラ」
「あぁ、そうだったのか……」
そう言って、真一は七志の顔を
「だっ、ダメだよシンイチくん!」
七志は手でフードを思い切り引っ張り、必死に顔を隠した。
「……実は、悪鬼に襲われた時ネ。顔に、
「あっ……ごめん」
そうか。自分はたまたま傷が治ったけど、中には治らない人だっているんだ。それにしても、顔に傷が残るなんて……。
真一は、必死に顔を隠す七志の姿を見て、彼もまた心に傷を負っているのだと感じた。
明るく振る舞ってはいるが、本当は……。
「でも、キミに会えて本当によかっタ。C級じゃキミは有名だからネ。とっても強い新入隊員がいるって。ボクはどこまで戦えるか分からないけど、C級代表として、ボクも頑張るヨ!」
七志は、少し自信なさげに、しかしハッキリとそう言った。
真一はそれを聞いてうれしかったし、同時に彼を助けてやりたいと思った。七志は真一にとって、初めてまともに話せたC級の仲間だったからだ。不安に駆られそうになっている仲間を、真一は放っては置けなかった。
「何言ってるんだ七志。僕たち二人で総天祭を勝ち上がってやろう。そして、C級にすごい新人が二人もいるって、みんなに思わせてやるんだ!」
真一は必死に笑顔を作り、明るく振る舞った。ミノリや
「ボクたちで、総天祭を……」
七志はしばらく
「うんいいネ。二人で勝ち上がろう、シンイチくん!」
「『真一くん』なんてやめてくれよ。真一でいいよ」
「……あぁ、シンイチ、よろしくネ!」
二人は手を取り合い、固い握手を結んだ。
すると、二人の目の前に、立体映像で
『ヨォ参加者諸君。シミュレーターは無事起動したみたいだな』
『私たち
『感謝してるぜ』
『いえいえ、こちらこそ』
『さて、今回の総天祭の参加者は、過去最多の百二十二人!』
『とても多いですね……これではトーナメント戦を行おうにも百二十一回も戦わなければなりません』
『そうだ。そんなに戦ってたら一体何日かかるか分からない! そこで、参加者を絞り込むためにこれから予選を行うことにした!』
『予選? それは一体どんな内容なんですか?』
『へへっ、これだ!』
鉄也の掛け声と共に、ボンという爆発音がして、それと同時にスタジアムは煙に包まれた。観客と参加者は困惑し、ざわめき出す。
「予選? 聞いてないぞ!」「何が始まるんだ……?」「もう始まってるのか?」
視界の悪さと気持ちの困惑は更なる不安を生み、未知の恐怖を呼び起こす。
真一も、みんなと同じように困惑していたが、七志は冷静だった。
「大丈夫だよ、シンイチ。これはただの煙。何かが現れる瞬間を演出するための舞台装置サ」
「そ、そうか……」
「うん、もうすぐ、煙が晴れるヨ……そうしたら、全てが分かるハズ」
七志の言う通り、煙は徐々に晴れていった。しかし、それと同時に、奇妙な音が聞こえてくる。
ズシン……ズシン……ガァァアアァ
地面を揺るがすような重い音と、そして、獣のような鳴き声が。
「これは……⁉︎」
煙の中から出てきたのは、数えきれない程多くの悪鬼だった。虫型を中心に、多種の獣型まで混在している。
『参加者諸君には、これから次々と現れる悪鬼を倒してもらうぞ。その数なんと、三百体だ!』
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