第26話 二人で総天祭を勝ち上がってやろう!

七志ナナシ……ジン?」

聞いたことのない名前だった。真一は、C級の隊員とそれほど交流がある訳ではなかったが、それでも、全員の顔と名前は覚えていた。その中に、七志ジンなどという人物はいなかったはずだが。

「ごめん、キミがボクを知らないのも無理はないネ。何せボクは、つい先日入隊したばかりだかラ」

「あぁ、そうだったのか……」

そう言って、真一は七志の顔をのぞき込んだ。

「だっ、ダメだよシンイチくん!」

七志は手でフードを思い切り引っ張り、必死に顔を隠した。

「……実は、悪鬼に襲われた時ネ。顔に、ひどいケガをしたんダ。晶子あきこさんたちのおかげで、だいぶ回復したけど、それでも傷が残ってしまっテ……あんまり見られたくないんダ」

「あっ……ごめん」


 そうか。自分はたまたま傷が治ったけど、中には治らない人だっているんだ。それにしても、顔に傷が残るなんて……。 

 真一は、必死に顔を隠す七志の姿を見て、彼もまた心に傷を負っているのだと感じた。

 明るく振る舞ってはいるが、本当は……。


「でも、キミに会えて本当によかっタ。C級じゃキミは有名だからネ。とっても強い新入隊員がいるって。ボクはどこまで戦えるか分からないけど、C級代表として、ボクも頑張るヨ!」

七志は、少し自信なさげに、しかしハッキリとそう言った。

 真一はそれを聞いてうれしかったし、同時に彼を助けてやりたいと思った。七志は真一にとって、初めてまともに話せたC級の仲間だったからだ。不安に駆られそうになっている仲間を、真一は放っては置けなかった。

「何言ってるんだ七志。僕たち二人で総天祭を勝ち上がってやろう。そして、C級にすごい新人が二人もいるって、みんなに思わせてやるんだ!」

真一は必死に笑顔を作り、明るく振る舞った。ミノリや彩華あやかのような自然な笑顔ではなく、少々引きった、ぎこちない笑顔であったが、それでもそこに込められた思いは本物だった。

「ボクたちで、総天祭を……」

七志はしばらくほうけたような表情をしていたが、すぐに笑顔になった。

「うんいいネ。二人で勝ち上がろう、シンイチくん!」

「『真一くん』なんてやめてくれよ。真一でいいよ」

「……あぁ、シンイチ、よろしくネ!」

 二人は手を取り合い、固い握手を結んだ。

 すると、二人の目の前に、立体映像で鉄也てつやと晶子の画像が映し出された画面が表示された。二人だけではない、全ての参加者の目の前に、同時に画面が現れた。


『ヨォ参加者諸君。シミュレーターは無事起動したみたいだな』

『私たち星空ほしぞらも協力して整備したので、起動チェックは完璧です』

『感謝してるぜ』

『いえいえ、こちらこそ』

『さて、今回の総天祭の参加者は、過去最多の百二十二人!』

『とても多いですね……これではトーナメント戦を行おうにも百二十一回も戦わなければなりません』

『そうだ。そんなに戦ってたら一体何日かかるか分からない! そこで、参加者を絞り込むためにこれから予選を行うことにした!』

『予選? それは一体どんな内容なんですか?』

『へへっ、これだ!』


 鉄也の掛け声と共に、ボンという爆発音がして、それと同時にスタジアムは煙に包まれた。観客と参加者は困惑し、ざわめき出す。

「予選? 聞いてないぞ!」「何が始まるんだ……?」「もう始まってるのか?」

視界の悪さと気持ちの困惑は更なる不安を生み、未知の恐怖を呼び起こす。


 真一も、みんなと同じように困惑していたが、七志は冷静だった。

「大丈夫だよ、シンイチ。これはただの煙。何かが現れる瞬間を演出するための舞台装置サ」

「そ、そうか……」

「うん、もうすぐ、煙が晴れるヨ……そうしたら、全てが分かるハズ」

 七志の言う通り、煙は徐々に晴れていった。しかし、それと同時に、奇妙な音が聞こえてくる。


 ズシン……ズシン……ガァァアアァ


 地面を揺るがすような重い音と、そして、獣のような鳴き声が。

「これは……⁉︎」

 煙の中から出てきたのは、数えきれない程多くの悪鬼だった。虫型を中心に、多種の獣型まで混在している。

『参加者諸君には、これから次々と現れる悪鬼を倒してもらうぞ。その数なんと、三百体だ!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る