第25話 七志ジン

『参加者諸君、総天祭そうてんさいへようこそ! これからみんなで戦ってもらうぞ!』

『ですが、みなさんが本気で戦ってしまうと、怪我けが人が出てしまうかもしれません』

『あぁ、なんせ俺たち夕空ゆうぞらが心血注いで作り上げた心機しんき同士で戦うんだからなぁ。それくらいの威力がないと困るってもんだ!』

『そこで、総天祭はバーチャル空間で行っていただきます』

『みんなの足元を見てくれ!』


 鉄也てつやの言葉を聞いて、真一は足元を見た。すると、目の前の床がせり上がり、そこから人一人が入れる機械のカプセルが現れた。

『みんなも見たことがあるだろう? そう! これはシミュレーターだ! 参加者にはこの中に入って、バーチャル空間上で戦ってもらう』

『バーチャル空間なら、どれだけ傷ついても、現実には影響がありませんからね』

『あぁ。そして、バーチャル空間での出来事は、このスタジアムに立体映像として映し出される』

『これでご来場の皆様にも、戦いの様子をお楽しみいただけます』

『さぁ、参加者諸君。目の前のシミュレーターに入ってくれ!』


 鉄也の号令を聞くと、みな次々と目の前のシミュレーターへと入っていった。それを見て、真一も慌てて中へ入っていく。真一は、てっきり隊員同士で直接戦うものだと思っていた。しかし、シミュレーターを使うと知って驚いた。

 真一はシミュレーター内の椅子に座る。すると、シミュレーターが床の中へと沈んでいき、次第に真一の視界は暗くなる。同時に、真一の意識はバーチャル空間へとどんどん溶けていった。


 体はリラックスし、筋肉は弛緩しかんする。やがて、体は指一本動かせなくなり、意識がハッキリしたまま眠っているような感覚になる。そして、頭の中にぼんやりとしたイメージが浮かんでくる。そのイメージは次第にはっきりと現実味を帯び始め、それと同時に、動かなくなっていた手足に、感覚が戻ってきた。やがてそのイメージに飲み込まれた時、真一は目を開けた。


 もう視界は開けており、手足も自由に動き、感覚はある。しかし、真一がいる場所は先ほどまでいたシミュレーターの中ではなく、バーチャル空間で再現されたドームの中だった。

 周りには他の参加者も大勢見え、観客の様子や、その歓声まで、まるでその場にいるように再現されていた。


 それにしても、今年の総天祭はどのようにして行われるのだろうか? 毎年形式は少しずつ変わると、ミノリから聞かされてはいたが……。

 真一は考えた。

 シミュレーター内で戦うにしても、これだけの人数で同時にやる必要があったのだろうか? まさか、このまま全員で戦って、最後まで立っていた人が優勝ということだろうか?


「ねぇキミ、シンイチくん、だよネ?」


 考えむ真一の背後から声がした。

 それは男性とも、女性とも取れない、不思議な声だった。

 驚いて振り向くと、そこには、白いフードを目深にかぶった少年が立っていた。

 顔は見えなかったが、背丈や雰囲気から見て、おそらく真一と同年代くらいだと思われる。その少年は、フードの中からわずかに見える口元を笑わせ、真一に話しかけた。

「あぁ、驚かないデ。ボクはキミと同じC級の七志ナナシジン。よかった、C級のみんなはほとんど参加しないから、ずっとキミを探していたんダ」

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