第28話 ボクとキミとの最初に作戦

 ピコン


 電子音と共に、大智だいち雅輝まさきの目の前に小さな画面が表示された。

『今、彼らの前の画面に表示されたのは、二人が倒した悪鬼の数だ』

『これで自分が倒した悪鬼の数を確認できます』


 鉄也てつや晶子あきこの説明を聞き、二人はすぐに画面を確認した。

「えーっと、オレが十三で、まさにいは……えっ、十七⁉︎ 後から出てきてオレより多く倒してるのズルいぞ!」

「何を言っているんですか大智さん? 誰よりも早くスタートダッシュを切っておいてズルいはないでしょう?」

「スピードはオレにとって最大の武器だからそれを使うのはありなの!」

「なら狙撃できることだって私の武器です。これでおあいこですね」

「何を! あーあ、こんなだったらしゃべってないで一気に倒しちゃえばよかった!」

「まぁまぁ、先ほどのは運もありますから。次は大智さんの方が多く倒せるかもしれませんよ?」

「よーし、負けないもんね! さぁ、次の悪鬼はまだかぁ!」


 S級の二人の様子を見て、真一は驚愕きょうがくした。一瞬で三十体の悪鬼を倒し、なおかつまだ余裕の表情を見せている彼らを目の前にして、実力の差を思い知ったからだ。

 真一だけではない。他の隊員たちも全員、意気消沈してうつむいていた。

「そんな……一瞬で?」「俺たち、本戦に行けるのか?」「間近で見るS級の力……ここまでとは」

そんなつぶやきが聞こえてくる。


「見たカイ? シンイチ。あれがS級の力サ」


 真一の背後から、七志ナナシが語りかける。しかし、真一には、彼の方を振り返る気力はなかった。

まさに一騎当千。彼らは本当に、たった二人で三百体の悪鬼を全滅させるつもりダヨ」

彼は冷静で、とても落ち着いていた。それどころか、その声は少し楽しそうにさえ聞こえる。

「……そうだろうな。あんなのを相手に、僕たちはどうやって予選を戦えばいんだ? 悪鬼を倒さないと、本戦には行けないんだろう?」

「大丈夫サ。ボクに考えがあル」

「考え? 一体どんな作戦があるって言うんだ?」

「まァ見てテ……でも、これだけは先に言っておくヨ。ボクの作戦にはね、キミの協力が必要なんダ」

「僕の、協力?」

「あぁ、悪鬼をたおソウ」

「一緒に……?」


 七志はその後、ゆっくりと隊員たちの前に歩み出て、そして、呼びかけた。


「みんな見たダロ! あれがS級の実力なんダ。このままじゃあの二人に、全ての悪鬼が倒されてしまウ。だけどみんな、落ち込むことはナイ。みんなの力を合わせれば、ボクたちはこの局面を必ず乗り越えられル!」

 七志のヤツ、何を言っているんだ? いきなり前に出て、みんなの力を合わせるなんて言い出して。見てみろ、みんな困惑しているぞ……。

 真一の思いをよそに、七志はさらに語りを続ける。

「確かにボクたちは、悪鬼を一体も倒せなかったら予選敗退ダ。でも、それは、何も一人でやらなければいけない訳じゃナイんじゃないカ? 二人で一体を倒したっていいじゃないカ!」

 真一はハッとした。

 もしも二人で協力して悪鬼を倒して、とどめを刺していない方の隊員も悪鬼を倒したことになるのなら、可能性はあるな……でも、それは本当なのか? 

 ざわつく会場。そして参加者たち。会場は不安と期待が入り乱れる混沌こんとんとした雰囲気に包まれていた。そんな中、七志は頬笑ほほえんだ。

「信じられないって感じダネ。そりゃそうダ。……じゃぁ、試してみようカ。シンイチ」

急に呼びかけられ、真一はビクリとする。

「シンイチ、もうすぐ大きなの悪鬼が現れるはずだ、それをボクたち二人で倒ソウ」

「? ……分かった。でも、本当に大丈夫なのか?」

「あァ、心配いらないヨ。ボクたちなら必ず勝てるサ」

そう言う意味ではない。と、真一は思った。それを七志が気づいたかどうかは分からないが、不安げな表情を浮かべる真一を見て、七志はニヤリと笑う。

「さぁ、来るヨ……」


 ボフンッ!


 爆発音と共に、真一たちの目の前に、本当に鳥型の悪鬼が現れた。

 悪鬼は甲高い鳴き声と共に、その黒く巨大な翼をはためかせ、真一たちを覆い尽くすような巨大な影を作る。

 驚いて悪鬼を見上げる隊員をよそに、七志は真っ白な刀を取り出した。そして、その透き通るような切っ先を悪鬼に向けてゆっくりと掲げる。

「行こうシンイチ、ボクとキミとの最初の作戦ダ」

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