第21話 総天祭

「ソウテンサイ? 何だそれは?」

真一はミノリに問いかけた。名前からして、おそらく何かの祭り。しかし、真一は祭りという催し物にいい思い出はなかった。祭りは親しい友達とその場の雰囲気を一緒に味わってこそ楽しいのだと、真一は知っていたからだ。しかし、真一にそんなことができる友達はいなかった。もしも、そのソウテンサイがSOLAソラで行う文化祭のようなものであったなら、自分は楽しめないだろうと、真一は思っていた。

 そんな彼に対して、ミノリは真剣な表情で答えた。


「SOLAで、一番強い隊員を決める大会だよ」

「……何だって⁉︎」

真一は声を荒らげる。

「僕でも参加できるのか⁉︎」

「うん。すべてのそらまつりと書いて、総天祭そうてんさい。その名の通り、SOLAの全員が参加できるよ」

「C級の僕でもか?」

「C級でも例外じゃない。C級からS級までの全員が参加できるの。それに、夕空や星空の隊員たちも裏方で参加するんだ。そこで真一が活躍すれば……」

「C級のみんなも、喜んでくれるかもしれない!」

今の自分にあるのは強さだけ。これだけで誰かを勇気づけることができる何かがあるとしたら、大会しかない。

 真一とC級の他の隊員は、決して親しくはない。しかし、大して興味のないスポーツの選手でも、出身地が同じだとか、同じ学校の卒業生だとか、そういった共通点さえあれば応援したくなる。それと同じように、自分が出れば、きっとみんなが注目してくれる。それでもしも、大会を勝ち進めたなら、優勝できたなら、自分はC級の希望になれる。真一はそう思った。


 真一は、期待と興奮で目を輝かせた。

 そんな真一を見て、ミノリはわざとらしく笑いながら問いかける。

「どうする? 参加は自由だけど?」

「するに決まってる!」

真一は即答した。

「そう言うと思った。まだ受付はしているはずだよ。受付場所は一階の……」

「分かった。ありがとう!」

ミノリの話も聞き終わらない内に、真一は走っていってしまおうとした。それを見て、ミノリは慌てて彼を呼び止める。

「あ、待って真一!」

「何だよミノリ! 僕はもう決めたんだ! 止めないでくれ!」

「ううん。自分から誘っておいて止めることはないよ」

「だったら……」

「ただね、これだけは言っておきたかったんだ」

「えっ?」

「真一は強いよ。でも、S級の強いからね!」

そう言う彼女の声は、信頼と自信のこもったものだった。しかし、それを受けても真一の決意は全く揺るがない。

「分かってる! その人たちと戦うのも楽しみにしてる!」

そう言って真一は走り出した。

 そうだ、分かっている。総天祭にはS級の隊員も出る。SOLAにたった三人しかいない、最強の戦士。他の隊員とは別格の強さを持つ存在。僕は、その人たちとも戦うかもしれないんだ。


『S級の私の仲間たちも強いからね』

走り出した真一はしばらくして、ふと先ほどのミノリの言葉を思い出す。

 S級の私の仲間たち。これはどういう意味だろうか。

 そういえば、ミノリの階級は何なんだ。周りの反応からかなり上位の階級にいると思っていたが、まさか。

「ミノリって……S級だったのか?」

そう気付いた真一は立ち止まり、後ろを振り返った。しかし当然、そこにミノリの姿はない。

 ミノリは総天祭に参加するのか。ミノリはどんな能力を使うのか。真一の頭に様々な疑問が浮かぶ。


 しかし、真一は途中で考えることをやめた。例えミノリが参加しても、彼女が強力な能力を持っていたとしても、自分のやるべきことに変わりはない。

 総天祭に参加して、活躍して、C級のみんなを勇気づける。それだけだ。そうすればきっと。

「僕も、みんなの仲間になれる!」

真一は、再び前を向き、受付への道を走り出した。

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