第18話 今お前がやるべきことは
「僕の武器……」
ガラスケースの中の剣に、真一は手を伸ばす。
これを使えば、僕も仲間と一緒に戦える。真一はそう思った。しかし、鉄也はケースを開けてはくれなかった。
「……早く開けてくださいよ」
真一は鉄也を
「おっと、まだそいつをお前に渡すわけにはいかないんだ」
「何でですか⁉︎ 僕はこれを使って早くみんなと一緒に戦いたいのに!」
「焦るなって。ほれ、ミノリと約束したろ? 『細かい説明は俺がやっとく』って。まだ入隊の手続きを何もしてないだろ?」
確かに、真一はそれらしい手続きをしていない。
「……分かりました。早くしてください」
「聞き分けはいいみたいだな。じゃぁいくぜ」
それから、十数分の間、鉄也は真一に
まず、SOLAに入隊すると給料が発生するということ。真一は、未成年である自分がいきなりそこそこの給料をもらえるということに驚いた。これは悪鬼との戦いで命を落とす可能性があることを考えると、当然の対価だということらしい。
そして、隊員にはランクがあり、上からS級、A級、B級、そして訓練生のC級と分けられているということ。上のランクにいくほど強い悪鬼と戦うこととなり、それに伴い報酬も増えてくる。同時に、上のランクは人数も少なくなり、最上級のS級ともなると現在のSOLAの三人しかおらず、それぞれ別格の強さを誇っている。
意外だったのは、SOLAを脱隊することはいつでも可能で、複雑な手続きは無用だということだ。トップである隊長に申告すれば、いつでも辞められるらしい。無理をしてまで危険な任務をすることはない、という初代隊長の考えらしい。そんなことをしていたら隊員がいなくなってしまいそうだが、その危険性に見合うだけの福利厚生も整えられていて、組織として人員に困ってはいないようだ。しかし脱隊する場合、その時にSOLAの秘密や悪鬼に関する記憶は消されてしまう。どういう原理でピンポイントに記憶が消せるのか疑問に思って聞いてみたが、悪用されるのを防ぐために、それを知っているのは初代隊長だけらしく、答えてはくれなかった。
「と、説明はこんな所か。何か質問はあるか?」
一通りの説明を終え、鉄也は真一に問いかける。すると、真一はすかさず質問をぶつける。
「僕はこのランクの内の、C級に入るってことでいいんですか?」
「そういうことになるな。まずは訓練生からだ」
「分かりました。それで、僕はいつから悪鬼と戦えるんですか?」
「B級以上に昇格してからになる」
「えっ? ……はぁ⁉︎」
真一は驚きと怒りの表情を浮かべ、鉄也に迫る。
「おいおい、どうした急に?」
「僕は初見で悪鬼を倒したんですよ!」
「知ってるぜ、鋼太と彩華が散々痛めつけた後のボロボロの悪鬼にとどめだけ刺したって」
「っ! ……見ただけで、鋼太さんの武器をすぐに使えたんですよ!」
「それは本当にすごいな。だからこそ、訓練をして自分の能力を伸ばしてから、存分に活躍してほしい」
「でも……!」
「真一!」
鉄也が急に大きな声を出したことで、真一はビクリとした。見ると、鉄也に今までのような
「悪鬼にも強い個体と弱い個体がある。真一、あの日お前が倒した悪鬼が強い方か弱い方か、分かるか?」
真一は昨夜、苦労して悪鬼を倒したが、戦闘経験はその一回しかなかった。それだけでは、あの悪鬼の相対的な強さは分からない。
「分からないよな。そのことも今から説明してやる」
すると、鉄也はペンを取り、ホワイトボードに文字を書き始めた。
「悪鬼にもランクがあってな、上から順に
鉄也はホワイトボードに「竜型 人型 獣型 虫型」と記入した。
「さて真一、昨日お前が倒した悪鬼は、この四つの内のどれだと思う?」
「それは……」
悪鬼の特徴を考えれば、答えは明らかだった。しかし、真一はそれを口に出すのを
「虫型……です」
「そうだ。悪鬼の中でも最も弱い虫型だ」
鉄也は虫型の文字を丸で囲んだ。
真一が昨夜倒したのは、すでにボロボロになった状態の最弱の悪鬼だったのだ。恥ずかしさと悔しさと情けなさで心が一杯になる。真一は歯を食いしばり、鉄也の目を見る。
「お前は確かに優秀だ。潜在的な魔力量も多い。だが、SOLAじゃお前はただの新入隊員だ」
「……分かっています」
「鋼太や彩華、それにミノリは、人型や獣型とも何度も戦って、そして勝ってきた」
「はい……」
「あいつらと一緒に戦いたいなら、今お前がやるべきことは分かるな?」
今の自分は弱い。真一はそのことを自覚した。弱いのならば、自分は誰の役にも立てない。そして、そんな自分では誰かと共に戦うことなどできないのだ。ならば、やるべきことは決まっている。
「訓練生として経験を積んで、強くなることです」
鉄也は、そう言う真一を見てニッと笑った。
「よし、分かっているならよろしい! さ、訓練室はここを出て右だ。案内板があるから迷わないはずだ」
「はい!」
「こいつも忘れるなよ」
鉄也はそういうと、
「ありがとうございます!」
そう言うと、真一は鉄也の研究室を後にした。
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