第15話 まるで、お客様だな

 中心基地に入った真一は、医務室で精密検査を受けた。そして検査結果の用紙を持って、ミノリの待つ場所へと向かう。

 ミノリがいるのは、ビルの最上階にある展望室。全面ガラス張りの窓から見える景色が、つやのある黒い床に反射する。外が一望できるその場所には、休憩できるようにいくつかの机と椅子が用意されており、ミノリはその中の一つに座っていた。

 彼女の元へ向かう真一の足音に気づいたのか、ミノリは立ち上がった。

 カツカツという彼女のサンダルの音が静かに響く。

「検査お疲れ様。まずはゆっくり休んで」

そう言うとミノリは、真一を先ほどまで自分が座っていた席の隣へ案内した。真一が席に着くと、ミノリは座らず、何かのメニューを真一に差し出した。

「喉乾いてない? 何でも好きなのを選んで。何か飲みながら、これからの話をしよう」

渡されたのはドリンクのメニューだった。コーラ、メロンソーダ、オレンジジュース、麦茶……一般的な飲み物は全てそろっている。真一はその中の一つを指刺した。

「じゃぁ……これで」

「オレンジジュースね、分かった。すぐ用意するね」

そう言って、ミノリはメニューを持っていってしまった。どんどん遠くなる彼女の背中を見て、真一はわずかな居心地の悪さを感じた。

「まるで、お客様だな」

わざわざ綺麗きれいな格好をした女性が家まで出迎えてくれて、そのまま基地に案内され、その上飲み物まで用意して歓迎してくれる。

 ありがたいことだが、どこかよそよそしい。

「当然か、僕はよそ者だもんな」

そう言って、真一は窓の外を見た。

 広い。町の全てが一望できる。ここは日本のどの辺りだろうか。分からない。

自分はこの、どこかも分からない場所に招かれて、これからどうなってしまうのだろうか。最初は未知の世界に期待していたが、徐々に不安が大きくなる。ミノリは先ほど「これからの話をしよう」と言っていた。これからの話とは何だろうか。もしや、組織の秘密を知った自分をどうにかしようというのだろうか。

 いや、今までの対応からきっとそれはないだろう。それより可能性が高いのは、一緒に戦ってくれないかと誘われること。そうなれば、少なくとも今よりは面白い人生になるはずだ。この何となくつまらない人生から、変われるはずだ。

 そう考えているうちに、ミノリが戻ってきた。

「お待たせ真一。はい、オレンジジュース」

そう言って、ミノリは真一の前にコップを置いた。

 細長い円柱状のガラスのコップに、大きな四角い氷がいくつか入っており、そこに白いストローが刺さっている。真一がストローに唇を付けて一口飲むと、甘酸っぱいオレンジの味とともに、その果肉まで流れ込んできた。どうやら、かなりいいオレンジジュースのようだ。ミノリも同じコップに入ったメロンソーダを持って来ていたが、それを飲む気配はない。ミノリは、真一がストローから口を離すことを確認すると、彼の目を見て話を続ける。

「真一、検査の結果はどうだった? 異常はなかった?」

「うん、大丈夫だったよ」

「よかった。念のため、私にも見せてくれる?」

「……はい」

検査結果を受け取ったミノリは用紙の隅々まで素早く目を通した。

「すごい、本当に全快しているんだね。あの夜、私たちは真一に傷薬を塗っただけなのに……」

「らしいな」

「検査してくれた人からは何か言われなかった?」

「驚いていたよ。こんなに早く治るのは異常だって。……微量の魔力反応がどうとか言っていたけど。とにかく、僕の体はもう大丈夫なんだって」

「魔力反応? ……でも、そうか。ちゃんと治っているんだね。よかった」

ミノリがそう返事をした後、少しの間、沈黙が流れる。

先ほど持ってきたコップには、すでに水滴がいくつも着いており、溶け始めた氷が崩れ、カランと音を立てる。

「あのね」

先に口を開いたのはミノリだった。

「真一は初めて見た敵を、初めて使った武器で倒した。悪鬼と戦っている私たちSOLAソラからすると、是非とも力を貸してほしいんだ」

ミノリはまっすぐに真一を見つめ、真剣な目で語る。

「だからね真一、私たちの仲間にならない?」

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