第12話 その格好で女の子と会うつもり?

「ミ……ミノリさん⁉︎」

インターフォンから聞こえる声は間違いなく、昨夜出会ったあの少女の声だ。つまり、昨夜のことは夢ではなかったということになる。

「一○分待ってくれ! 用意するから!」

そう言うと、真一は急いで髪を整え、服を着替え、玄関先で待つミノリの元へ向かった。しかし、靴を履き、家からでようとしたその時、後ろから大声で呼び止められた。

「ちょっと待ちなさい真一!」

振り向くと、そこには腕を組んで仁王立ちをしている真理奈がいた。

「何だよ真理奈? 僕は急いでいるんだ!」

「それは見たら分かるわ」

「だったら何で止めるんだ? 用があるなら後にしてくれ!」

真一がそう言うと、真理奈はあきれたように深いため息をついた。

「あなたね……で女の子と会うつもり?」

「はぁ?」

真一は玄関にある鏡で自分の服装を見た。今の格好は、ドクロのプリントの入った白いシャツに、派手なダメージジーンズ、そしてジャラジャラとしたチェーンのアクセサリーが付属したベルトをつけていた。

「……何だよ? 文句あるのか?」

「あなたが一人で出歩く分には問題ないわ。でもね、女の子と会うんだったらもうちょっとまともな格好をしなさいよ! 恥ずかしいのよ!」

「えぇ……もう時間ないんだけど?」

「だったら制服でも着ていきなさい。少なくとも今よりは断然ましよ」


 真一は、真理奈の話を全く納得できなかった。休日に誰かと会うのに制服はおかしいと思ったからだ。しかし、真理奈の目は本気だった。そして何より、どこか哀れみの表情をしているように見えたのだ。どうやら、今の格好は相当にダサいらしい。

 真一は渋々制服に着替え、玄関へと向かった。出ていく直前に真理奈に言われた「もうあなたはずっと制服の方がいいかもね……」という言葉が気になったが、深く考えずにそのまま外へ出た。


「ごめんミノリさん、待たせちゃった」

真一はそう言って、急いで玄関のドアを開けた。すると、真夏のまぶしい日差しに一瞬目がかすむ。やがて光に目が慣れてくると、玄関先で待っていたミノリの姿が見えて来た。

 ミンミンとセミが鳴く夏の真昼。彼女は日差しを避けるように玄関先の小さな日陰に立っていた。彼女の服装は、昨夜のような制服ではなかった。半透明なレースのついた真っ白なロングワンピースに、大きな麦わら帽子。吹き抜ける風が彼女のスカートをたなびかせ、その布地に真夏の白い太陽がまぶしく反射する。ミノリは風になびく髪を抑えながらこちらを振り向き、満面の笑みを浮かべる。

「こんにちは、真一。ケガはもう大丈夫?」

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