第2章 SOLA

第11話 いい加減に起きなさい!

 そこは、何もない白い空間だった。上も下も、右も左もない、無重力の真っ白な世界。気がついたら真一はそこにいた。

(悪鬼は? 鋼太さんは? 彩華さんは? そして、ミノリさんは?)

分からないことばかりであったが、不思議と怖くはなかった。とても安らかな気持ちに包まれ、呼吸は安定し、全身の緊張がほぐれ、筋肉がリラックスしているのがはっきりと分かる。

(……僕は、死んだのか?)

真一は思った。

 悪鬼との戦いで自分は死んで、ここはあの世だろうか。そう考えると、後悔ばかりがつのる。

(死ぬなら、もっとやりたいことがあった。誰かとのきずなが欲しかった。それに、恋だってしてみたかったな……)

しかし、それももうかなわない。悔しさと同時に、むなしさに襲われる。


『シンイチ……』

どこからか、声が聞こえる。聞いたことのない、女性の声が。

『シンイチ……あなたにはまだ……こ……が』

女性の声はどんどん遠くなり、不鮮明になっていく。

『強く……て……あ……たす……て』

「何だよ! 聞こえないよ!」

真一は叫んだが、返事はない。


『真一……』

しばらくして、また声が聞こえた。しかし、今度は聞いたことのある声だ。

『真一……真一!』

声はドンドン大きくなる。

『こらバカ兄貴! いい加減に起きなさい!』


 真一は飛び起きた。

「はあ……やっと起きた。おそよう、真一。もう昼よ?」

そこは真一の自室のベッドだった。閉じられたカーテンの隙間すきまからは、真夏の日光が差し込んでいる。クーラーもかけていない部屋はとても暑く、体にはじっとりと汗をかいていた。

 隣を見ると、呆れた顔の真理奈まりながこちらを見ている。

「……真理奈? えっ? 悪鬼は? 学校は?」

「はぁ? まだ寝ぼけてるの? いいから、さっさと起きなさいよ」

真理奈はそう言って部屋を去っていった。真一はその姿を呆然ぼうぜんと見送る。辺りを見ると、そこには。昨日までと何も変わらない自分の部屋が広がっていた。

(今までの出来事は全部夢だったのだろうか? 悪鬼のことも、あの戦いのことも……そういえば、あの時、僕はとてもひどいケガをしたはずだ)

そう思い、真一は自分の体を確認した。しかし、体には傷一つなく、痛みさえない。

(やはり夢だったのだろうか……?)


 ピーンポーン


 部屋の外でベルが鳴り、それに気づいた真理奈がインターフォンで対応をする。

「はい。……はい、ええ、います。……少々お待ちください」

部屋にいる相手の声は聞こえないが、真理奈の反応を聞く限り、彼女の友達ではなさそうだ。真理奈はインターフォンを切り、そのまま真一の部屋へと近づいてくる。そして彼女はコンコンと二回ノックをしたのち、ドアの外から真一に話しかけた。

「真一、お客さんよ。寝起きで悪いけど、早く出て」

(僕に客? 一体誰だ?)

そう思いつつも、真一はベッドから体を起こし、インターフォンに出る。

「はい」

『あっ? 真一? 今から時間ある?』

相手は女性の声だった。どこかで聞いたことがあるような気がするが、誰の声だか思い出せない。

「あの……すみません、どちら様ですか?」

真一は、怪しむような低い声で問いかける。真一はクラスで仲のいい女子などいなかった。部活にも入っていないため、誰かが自分に会いに来る理由など考えられなかったのだ。

『あっ、ごめんね。私、天川あまかわ御祈みのり。昨日のことで、話したいことがあるの』

寝ぼけていた真一は、一気に目が覚めた。

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