第10話 地上に降りてきたお星様みたい

 悪鬼は鎌を高く振り上げた。間近で見る悪鬼は、遠くでただ見ていた時よりもずっと大きく、恐ろしく見える。

(あの鎌を防げなかったら、間違いなく即死だな……)

恐怖はあった。全身が震え上がる程に。しかし、それをも上回る、誰かを守りたいという思いによって、真一は今ここに立っている。鋼太たちの戦いを見る中で、悪鬼の関節の可動域は把握していた。そして、今の悪鬼の体勢から繰り出される攻撃のパターンも予測できる。その先読みした相手の行動に合わせて、防御の姿勢を取る。

(さぁ来い、絶対に受け止めてやる!)

くうを切る音と共に、悪鬼は鎌を振り下ろした。


 キィィィィィィィン……

 響く金属音。真一は悪鬼の攻撃を防ぐことに成功し、巨大な鎌を、剣一本で完全に静止させている。真一は、鋼太の剣を、彼と同じように使えたのだ。悪鬼の重さを考えた時、真一の力で攻撃を受け止めることなどできるはずもない。しかし真一は、鋼太の剣の持つ特殊な力を予想していた。真一の想像通り、剣は防御用の剣であった。その刀身で受け止めた攻撃は軽くなり、真一でも十分に支えられた。


 しかし。

「ぐふっ……!」

全身の力がすさまじい勢いで消費されているような異様な感覚に襲われ、真一は構えを崩しそうになる。

(なるほど、剣の力を使う代償は使用者のエネルギーか……)

このままでは、潰されるのも時間の問題だ。真一はそう思い、次の手を打つことにした。

「あっ……彩華さん!」

「えっ⁉︎」

急に呼ばれた彩華は目を白黒させた。

「僕が抑えている内に悪鬼を縛ってくれ……早く!」

「……了解!」

彩華が素早く悪鬼を縛ると、悪鬼はわずかに姿勢を崩した。その隙に、真一は鎌を払いけた。

(ここだ!)

 鋼太が強烈な一撃を放っていたのは、決まって防御の後であった。おそらくあれは、防御の時に吸収したエネルギーを攻撃力に転換していたんだろう。ならば、今このタイミングなら無防備な悪鬼に必殺の一撃をたたき込めるはずだと、真一は考えた。

(できるだろうか? できなかったら、悪鬼のそばにいる僕は最初に殺されてしまう……)

恐怖はあった。しかし、迷っている時間はない。

 できたら勝てるかもしれないし、できなかったら死ぬ。そして、できるできないに関わらず、

(だったら、僕のエネルギーなんかいくらでも持っていけ。だから僕に、こいつを倒す力をくれ!)

 真一は悪鬼をまっすぐ見すえ、つかを握る手に力を込める。すると、剣はまばゆく輝き、巨大な光の剣となった。それは、先ほど鋼太が見せた光よりもずっと強く大きな光だった。

 辺りを照らし出すその光に、近くにいた彩華はもちろん、遠くで膝をついている鋼太も目を覆った。しかし、ミノリだけは目を離さずに真一の姿を見つめていた。


綺麗きれい……まるで、地上に降りてきたお星様みたい」

真一は光の剣を振り上げ、悪鬼の懐に思い切りたたきつける。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

振り下ろされた光の剣は、悪鬼の体をバラバラに砕いて消滅させ、有り余るエネルギーは地面を割り、校庭に大きな傷跡を残す。


「勝ったぞ。でも、もう……」

先ほどの一撃で、真一はかなり消耗してしまった。そして、力無く剣を手放し、眠るように倒れ伏してしまった。

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